次の日。
私はまたこっそり教室を抜け、誰もいない廊下を通る。
彼は来てくれるだろうか。
昨日と同じように教室のドアをノックする。
トントン
「はーい!!」
え・・・、って風間くんか。
「びっくりするからやめてよー・・・」
「神崎さん面白い」
「失礼な!」
軽口を叩いていつも通りにピアノ椅子に座る。
・・・いや、座ろうとした。
「・・・そうだ、」
「ん?どうしたの」
「風間くん弾いてみて、聞きたい」
「え!?僕そんなにうまくないんだけどな・・・・独学だし」
確かに独学で、っていうのは難しと思う。
「なおさら聞きたい」
「うーん、笑わないでよ」
「分かった分かった」
今度は彼が椅子を引いて腰掛ける。
こうやって見ると、男の子なんだなーと思う。
私より肩幅広いし、手も大きくて角張ってる。
って・・・何言ってるんだろ。
「よーし、」
優しい、ふんわりとした曲が流れる。
にこにこした顔は真剣な表情に変わっていて、彼の出す音にのめり込む。
なんか・・・かっこいい?そう思うとだんだん頬に血が上ってくる。
そうだ、私風間くんのこと、好きだ。
ほんとに昨日の今日だけど、いつものにこにこしている彼も好きだけど、今の真剣な風間くんはかっこいい。
すとん、と「好きになった」という言葉が飲み込める。
きっとそういう事なんだ。
私は今まで恋をしたことがなかった。
でも、今ならわかる。
にしてもギャップ、というものなのかな。
すごくかっこいいけど、ほかの子に見せたくない。
「・・・どうだった」
もう演奏が終わってたらしい。気づかなかった・・・・
「凄かった!!あんな弾き方もあるんだ・・・」
「周りの人からは何あの弾き方、珍しいって言われるけどね」
そういって苦笑する。彼は認めてもらったことがないんだろう。
「確かに珍しいけど、いい音だった・・・」
「ありがとう、あんまりそう言われたことないから照れるな・・・」
「独学でここまで出来るなんて・・・いや、独学だから、かな」
「そう言ってもらえるとありがたいよ」
彼の持つのは一種の才能だと思う。
「今度さ、連弾の発表会一緒に出ない?」
「・・・・出たい!!」
まさか連弾のお誘いが来るとは思わなかった。
でも一緒にできるのは嬉しい。
「ちょっと難しいけどさ、2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ、はどうだろう?僕あれ引くの憧れだったんだ」
「う・・・ん、それにしよっか」
彼はただ単に引きたいだけなんだろうけど・・・・
「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」っていうのは一人がパートナーの後ろからかぶさるように弾くところがある。
ちょっと恥ずかしい・・・・
「じゃあ毎日放課後ここ集合!!で、連弾の練習な」
「そうしよっか、家で自分のパート練習しておくし」
「いやー楽しみだなぁ!」
彼は嬉しそうだし、別にいいか。
かぶさる方は基本男の人だし、任せることにする。
・・・・私が持つかどうかは別だけど。
さて、家に帰って練習しようかな。