結局彼とは一言も話さずに授業が終わった。
鞄に教科書を詰めて席を立とうとした。
「あ、要ちゃん!!」
「笹倉さん、どうしたの?」
クラスでいつも騒いでる、少し苦手な彼女、笹倉愛ちゃん。
どうしても近づきがたい・・・というか、性にあわない。
「ねね、風間くんってかっこよくない?」
「えー私は佐々木君の方がかっこいいと思うよー」
「だから愛は趣味わりぃんだって!」
わらわらと私の周りに人が集まる。
正直彼女たちはあまり好きじゃない。私は教室でこじんまりしてるタイプだし。
「んー私は綺麗な顔してると思うよ」
「要ちゃん分かってる!!」
「えー神崎さんも愛と同じタイプ?」
「なにそれー!!」
もう帰りたい・・・・。ほんとこういう時って女の子は面倒だと思う。
「あ、ごめんね先帰る」
「そーなの?バイバーイ」
「バイバイっ!要ちゃん」
「また明日ー」
とりあえず切り抜けれた。
私の足は靴箱と真反対に向かう。
二階に上がると、もう誰も居なかった。
「ラッキー」
ぽそ、とつぶやく。私の用があるのはこの先の使われてない音楽室だ。
音楽室に入る前に、周りをきょろきょろと見渡して確認。
よし、だれもいない。そう心の中でひとりごちる。
コンコン
「失礼しまーす」
どうせ先生もいないだろうけど、一応の確認。
思ったとおり誰ひとり音楽室の中に居なかった。
ふわふわな椅子を引いて座る。いつも思うけどピアノの椅子って気持ちいい。ふっわふわ。
ここはどこの部活も使ってないから、唯一空いている。
「・・・・ふぅ」
蓋を開いて鍵盤に指をかけた。
自分の思うままに、好きなようにピアノを弾く。
私は自分で曲を作っているから、ふと思いついた音を弾いてメモしていく。
そうして、いい気持ちで弾いていた時、
ガラッ
「っ!?」
慌ててピアノの影に隠れる。
だってここには誰も来ないはずでしょ・・・!?
「・・・・あれ」
この、声は
「誰もいない?・・・あ」
「・・・・・」
風間くんだ。バレちゃった・・・・。
「・・・・ねぇ、さっき弾いてたのって君だよね」
変につっこんでくれないのは助かるけど、この体制で話すのはちょっと・・・
傍から見たら高校生二人がピアノの横でしゃがんでるっていうシュールな場面が出来上がる。
「・・・・そうよ」
そうっと立ち上がる。
「今の聞いたことなかったんだ、もしかして自作?」
かぁーっと顔に熱が集まる。
あまり知られたくなかったんだ。きっとみんなコイツ自信家?ってなるから。
一度馬鹿にされたことがあった。
また、馬鹿にされるのかな。
「・・・・うん」
「凄いな!!」
急なことで目が丸くなる。
「へ?」
「僕さ、ピアノが大好きでいつも弾いてるんだけど、君みたいに上手く引けないんだ」
「風間くんもピアノしてるの?」
「うん、独学で・・・ってあれ、僕名前言った?」
「同じクラスよ」
「え!?」
なんか思ってたより明るい子だ。おもしろい。
「ごめんね、名前覚えるの苦手でさ・・・・君の名前は?」
「自己紹介してないんだからいいよ、私は神崎要」
「神崎さんだね!で、話に戻るけど・・・」
彼はとても楽しそうに話す。そんなにピアノ好きなんだろうか。
「でね、こうなめらか?というか・・・・」
「ぷっ・・・」
「え!?」
つい吹いてしまった。
「な、何か変だった!?」
「違うの、だってあまりにも生き生きしてるから・・・・」
また笑えてきた。風間くんは頬をかいている。
「だ、だってさ、こういう話できる人がいなかったんだ」
口を尖らせて言い訳のように言う。
「ふふっ、風間くん面白いね」
「いやぁ・・・・」
照れてしまってるみたい。あまり褒められないのだろうか。
「そうだ!!ねぇ、ここ毎日来てるの!?」
「うん?そうだけど・・・・」
「また来ていいかな!!」
「ふふっ、いいよ」
「ありがとう!!!」
ぱあぁっと花が咲いたように笑う。すっごく可愛いんだけど。
「ふふ、ほんと風間くん面白い」
「えぇっ!?」
私には変わり者の可愛いお友達が出来ました。