「そ、そっか……」
「多分…今日の放課後も帰れない」
「……」
その言葉に素直にうなずけない自分は、本当に子供だと思う。
素直に頷けばいいのに、それが出来ない。
また、さくら先輩と会うの?
そしてまた、私に嘘をつくの?
そんな考えばかりが私の中をぐるぐると回る。
「分かった」
そう答えられた自分を褒めてあげたい。
本当は分かっていないのに、わかったふりをする。
ねぇ、輝君。
どうして、嘘をつくの?
私、さくら先輩と居たからって怒らないのに。
輝君が嘘をついた事が、私は辛いんだよ?
「ごめん」
「え……?」
かすかに聞こえた、輝君の“ごめん”。
ごめんて何?
なにに対して謝ってるの?
教えて輝君。
今の私じゃ、そのごめんの意味を知るのは難しすぎるよ…。
「はぁ………」
「あんた、ため息、何回目?いい加減しゃきっとしなさい!」
「だってぇ~……」
一日はあっという間に過ぎ、今は放課後。
今日、何度目か分からないため息を私は吐き出す。
「仕方ないじゃない、荒城が嘘をついているのかもわかないし」
「それはそうだけど……」
ちーちゃんが言いたいのことぐらい、馬鹿な私でもわかる。
輝君を信じろと言いたいんだ。
そんなこと分かってるよ。
だけど、私には難しいの。
これって我儘なのかな?私って、欲張り?
「荒城の事信じてあげなよ?」
「うん……」
当の本人はもう帰っている。
私の“ばいばい”も聞かずに帰ってしまった。
「輝君の馬鹿……」
どうしたら大人なになれるんだろう?
「帰る……」
「え、ちょっと!琴音!?」
モヤモヤしたこの気持ちを帰ってリセットしよう。
そう思った私は、教室を出た。
一人歩く廊下がこんなにも広く感じるんだと改めて感じてしまう。
いつも隣に居る輝君が居ないだけで、これほどまでにも広く感じる。
「輝君……」
名前を呼ぶ事で、輝君があらわれてくれるだなんて思って無い。
だけど、呼びたくなった。
少しずつ自分の中で色々な感情が芽生えてくる。
そうかと思えば、ジワジワと視界が滲んでいく。
そして、意味もなく私の頬を流れて行く。
どうして?どうして嘘をつくの……?
輝君が遠く感じる。
私のずっとずっと先を歩いて、私がどれほど手を伸ばしても届かない場所へ居るみたいだ。
「あれ?琴音?」
「え……?」
急に名前を呼ばれた事によって、つい振り向いてしまった。
「あ……」
そこには、先輩が立っていた。
「なに泣いてんの?」
「っ」
見られた…。
私は慌てて涙を掌で拭う。
「な、泣いてません!」
「そんなこと言われても、頬に涙の跡あるのは俺の見間違い?」
近付いてきたと思えば、私の頬にそっと手を添える先輩。