『恵梨ちゃん!
僕ね、恵梨ちゃんの事、だ~いスキ!』
『龍くん!
恵梨も龍くんの事、だ~いスキ!』
あの頃の僕らはまだ幼かった…
何も知らない子供だった…
思った事は何でも素直に伝えられた…
だけど月日は流れ僕らは成長したんだ…
あの時、まだたったの4歳だった無邪気な僕らは
いつの間にか14歳の中学2年生へと・・・
時の流れに逆らう事なく流され続け
気付けば10年と言う時が流れていた・・・
その中で僕らは成長したんだ…
身長が伸びたとか体重が増えたとか…
そんな目に見える成長じゃなくて
人を思いやる心を知ったとか本当の友情を知ったとか…
目に見えない成長をした。
だけど逆に素直に気持ちを伝えるという事を失っていた…
1番大切な素直に気持ちを伝えるという事を________
『龍~また空見てんの!?
龍ってホント好きだよね!?空!』
『あぁ…好きだよ!』
『空のドコがそんなにいいの?』
『そんなの好きな奴にしか分かんねぇよ!!!特にお前みてぇに心が汚れた奴には分かんねぇ!!!』
『何言ってんの!?
絶対、龍の心より私の心の方が綺麗だし!』
『あっそ!』
『うゎ…冷たッ!』
俺は田上 龍也(タガミ リュウヤ)
空を見るのが好きだ!
空を見ていると心が落ち着く。
そして、こいつは安西 恵梨香(アンザイ エリカ)
口うるさい奴でよく言い合いになる。
こいつと俺は世間一般で言う“幼なじみ”って奴らしいけど
俺はこいつの事を幼なじみだと思った事は1度もない!
ただの1度も…………
だって俺はこいつの事が好きだから…
昔から
こいつの事が大好きだから_________
『ハイハイ!ど~せ俺は冷たい男ですよッ!ってか、お前部活は?』
『今からだけど。龍こそ部活は?』
『俺!?俺はサボり!』
『何で?サボってたら上手くなんないよ!』
『だってよ~部活めんどいからさ…
サッカー好きだけどよ、顧問苦手なんだよな~…』
『龍、カワイ~!
部活にはサボらず出なさい!』
『お前、人をカラカうな!
しゃ~ない…めんどいけど出るか…』
『よろしい!』
その時、向こうの方から声が聞こえた。
『恵梨香~!早くしないと置いてくよ~!』
『あ、ヤバッ!
待って!すぐ行く~!
じゃぁね!龍!部活頑張ってね!』
『おぉ!お前も頑張れよ!』
『うん!』
それから恵梨は廊下を駆けていった。
『さて、俺も部活行くか。』
俺は恵梨に弱い…
特にあいつの笑顔には…
昔は
泣き虫な恵梨を笑わせようと毎日、必死に頑張っていたものだ…
だが最近の俺は恵梨の笑顔に助けられている
空を見るのと同じ様に
恵梨の笑顔も落ち着く。
俺が空を見るようになったのは小5の冬__________
もうすぐ春だと言うのに相変わらず寒い日が続いていた
そんな中、俺は空を見るようになった________
そう、あの日から俺は変わったんだ……………
あの日はとても寒い日だった…
3月だというのに珍しく雪が降っていた。
『龍~!涼ちゃ~ん!雪だるま作ろ~!!』
家中に恵梨の声が響き渡った。
恵梨が言う“涼ちゃん”とは
俺の兄ちゃんの事だ。
名前は、田上 涼(タガミ リョウ)
俺らより6つ年上で17歳。
俺は兄ちゃんの事が好きだ!
もちろん兄弟として!
そして俺が尊敬する人、第1位が兄ちゃんだ!
『恵梨、朝っぱらからウルサい!!!』
『龍…何言ってんの!?もぅお昼なんだけど…大丈夫?』
『うゎ…マジだ…
兄ちゃん!もぅ13時!間に合う?』
『うゎ…ヤバッ!!』
兄ちゃんは凄いスピードで2階から下りて来た。
『涼ちゃん、どっか行くの?』
『あぁ!』
『彼女とデートだとよ!』
『龍、余計な事言うな!』
『はいはい!行ってらっしゃい!』
『おぉ!行って来る!龍也、恵梨香、仲良くな!』
『涼ちゃんこそ彼女さんと仲良くね!』
『はいよ!じゃ2人共またな!』
兄ちゃんは、そう言って笑顔で出かけて行った…
それは俺らが見た兄ちゃんの最後の笑顔だった…
『龍、私たちは雪だるま作りに行こう!』
『ちょぃ待てよ!?準備して来る!』
そう言って俺は準備をする為に2階へ上がった。
『龍~!まだ~?』
『待たせてゴメン!』
『早く行こ~!』
『うん』
俺らは
それからしばらく雪だるまを作るのに夢中になっていた。
が、しばらくして恵梨が
『龍~頭乗せよ~!』
と言って来た。
しかし俺は『まだ早い!』と言った。
すると恵梨は“プ~”と頬を膨らませた。
『ハイハイ!分かった!分かった!じゃぁ乗せるか。』
俺がそう言った瞬間
恵梨の顔は“パ~”っと明るくなった。
『うん!龍、そっち持って!』
『はいよ!』
『ぃぃ?いくよ!?』
『うん』
『『せ~の!』』
ドンッ!!!
もの凄い音と共に雪だるまは完成した。
『出来た~!』
『恵梨、嬉しそうだな!』
『嬉しいよ!龍は嬉しくないの?』
『嬉しい!嬉しい!』
『龍のバカ~!!』
『何でだよ!?』
ドスッ…
『いってぇ…』
恵梨が俺に向かって雪玉を投げて来た。
『やったな~!』
ドスッ…
俺はやり返した。
それから2人で雪合戦をして遊んだあと家に帰る事にした。
俺は、その時まだ何も知らなかった…
『ただいま~!』
家に着いたのとほぼ同時に電話が鳴り出した。
『龍也、お帰り!ちょっと電話出て!』
『はいよ!』
ガチャッ…
『もしもし、田上ですが?』
この時、俺が耳にしたのは______
『こちら総合病院ですが
田上涼さんのご家族様ですか?』
と言う女の人の声だった。
『はい…そうですが…兄ちゃんが何か?』
『あ、弟さんですか!?お母様かお父様はご在宅でしょうか?』
『はい…少々お待ち下さい。』
『母さん、はい。総合病院から』
俺は母さんに受話器を差し出した。
『病院??』
母さんは不思議そうな顔をして受話器を受け取った。
『もしもし、お電話変わりました。』
それから母さんが電話を終えるのを待った。
3分くらいして電話が終わり
母さんが
『龍也、母さん総合病院行って来るけど着いて来る?』と聞いてきた。
『兄ちゃん何かあったの?』
『事故に遭ったらしいわ…』
『え…』
『どうする?』
『俺も行く…』
この時の俺の思考回路はほぼ停止状態だった…
母さんはそれからすぐにタクシーを呼びタクシーが着くとすぐに乗り込んだ。
『急いで総合病院までお願いします!』
『分かりました!』
タクシーの中では俺も母さんも一言も喋らなかった…
俺は
『兄ちゃん大丈夫?』と聞きたかったけど何となく聞いてはいけない気がして黙っていた。
病院に着いて
俺と母さんは急いで受付へ向かった。
『すみません。田上ですけど…息子は?』
受付に居る女の人に声をかける母さん。
『田上さんですね。2階の207号室です。』
『分かりました。ありがとうございます。』
母さんはエレベーターの方へ歩き出した。
俺は黙って付いて行く事しか出来なかった…