憧れ~大切な君へ~












そして火葬場で兄ちゃんは煙になって青く澄んだ大空の中へ消えて行った。








その日から俺は空を見る事が癖になった。

兄ちゃんが見てくれている様な気がするから。
昔、何かのテレビで聞いた事がある。
『死んだ人は星になるんだよ。
そしてね、君の事を空からずっと見守ってくれてるんだよ。』って・・・

だけど昔読んだ本の中には
『死んだ人は天国に行くんだ。
そしてね、君が精一杯生きて天国へ来るのを待ってるんだよ。どんなに時間がかかっても、ず~っと待ってくれてるんだよ。だから君が精一杯生きていけば天国で必ず会えるんだよ。』って書いてあった・・・


未だにどっちが本当かなんて分からないけど、俺は死んだ人は“空”になるんじゃないかと思う。

だって星は夜空でしか輝けない。
だから夜、寝ている人を見守る事しかできない。
そんなトコを見守ってたら“昼間の君を見てみたい”なんて思って淋しくなるし
死んだ人がみんな天国へ行ってしまったら何億年という時代の中で“天国”という国は死んだ人間でいっぱいになって自分が天国へ行く頃には“天国”という国はなくなっているかもしれない・・・

だけど空はなくならない。
何百年、何万年、何億年、何十億年たっても空はなくならないんだ。
今と変わらず太陽がみんなを照らしてる。
それでも雲が太陽を隠す時もある。
雨が降ったり、雷が鳴る時だってある。
だけどそれは空へ旅立った人が笑うのに疲れた時、雲がみんなにバレない様にそっと隠してくれてるんだ。
そして雨や雷は空へ旅立った人の涙や怒りをみんなに伝えようとしているんだ。



そう思って今日も俺は空を見上げる。
兄ちゃんは今、どんな気持ちなんだろうって・・・
兄ちゃんは俺の事、見守ってくれてるんだろうか・・・
って考えながら・・・




『龍!遅~い!』
『悪ぃ!』

俺等は毎日の様に一緒に帰っている。

誘ってくるのはいつも恵梨の方。

俺が前に一度
『たまには友達とも帰れよ!』と言った時
『だって私の家と同じ方向の人、龍しかいないんだもん!』と言っていた。
『な~恵梨!』
『何~?』
『兄ちゃん元気かな…?』
『龍が元気なら涼ちゃんも元気だと思うよ!』
『そっか…』
『うん。あ、龍!見て!』
恵梨は急に大声を出した。
『何?』
俺が聞くと恵梨は空を指して
『あそこ!』と言った。
恵梨が指す方を見ると綺麗な虹が架かっていた。
『綺麗…涼ちゃんからの贈り物だね!』
そう言った恵梨の笑顔は輝いていた。

兄ちゃん…
俺は恵梨が好きだ…
どうすればいいかな…
俺が考えていると同じクラスの
門川 結芽(カドカワ ユメ)が恵梨に声をかけた。
『恵梨香、頑張ってね!』
『うん…』
『大丈夫だよ!』
『結芽、私自信ないよ…』
『大丈夫だから頑張れ!
じゃあ、また明日ね!』
『うん、バイバイ…』
少しすると門川は走って帰っていった。
『あいつ元気だな…』
俺が呟くと恵梨が
『もしかして龍って結芽の事好きなの?』と聞いてきた。



どうやったらそうなるんだよ…
『そんな訳ないだろ!
で、何を頑張んの?』
俺が聞くと恵梨は
『それは…』と言ったっきり黙った。
『もしかして誰かに告白すんの?』
俺が聞くと恵梨の顔は赤くなった。
『そう言う事か!頑張れよ!』
おれは思ってもない事を言った。
それっきり恵梨は黙ったままだった。
恵梨の家の前まで来て
『じゃあな!』と言って帰ろうとすると『待って!』と呼び止められた。
『何?』
俺が聞くと恵梨は何も喋らず黙っていた。
『あ、もしかして応援してほしい?
悪いけど俺は応援なんかしねぇよ!』
そう言って帰ろうとすると恵梨が
『あの…あのね…私、ずっとずっと龍が好きなの!龍が私の事どう思ってるか知らないけど…私はずっとずっと龍の事が大好きだから!』
と言った。
俺は恵梨の言っている事が理解出来なかった。
『今、何て言った?』
俺が聞くと恵梨は
『龍の事が大好き!』と言った。
『それ本当?』
『嘘付くわけないでしょ!』
『恵梨、俺も恵梨が好きだ!』
俺も勢いで告白した。
『嘘…』
恵梨は信じられないというような顔をしていた。
『嘘じゃねぇよ!』
『龍!ありがとう!』


兄ちゃん


元気ですか?


俺は元気です!


兄ちゃんが旅立って14年経ちます。


俺は大学を卒業してすぐに


恵梨と結婚しました。



そして今年2人目の子供が産まれました。


1人目の子供は男の子で


涼平(リョウヘイ)といいます。


今年1歳になりました。


そして2人目は女の子で


涼子(リョウコ)といいます。


最近よく笑います。


2人に兄ちゃんの名前を入れたのは


兄ちゃんの様に優しく真っ直ぐに育ちます様に!と言う願いからです。