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「そうですか……。アイツって東京に出て来て日が浅いから、そんなに知り合いはいないと思ったんですけど。突然訪ねて来てすみませんでした」


そう言うと愛子は頭を下げた。

安西香奈の後ろには中里一も立っている。ここは東綾辺駅近くの児童養護施設、『わかば園』だ。

愛子は危険を承知で、海を探して都内をうろついていた。


海は、期待に応えたい、自分の生きる価値を証明したい、そんな風に言っていた。

そんな海が、獣人族のことを放り出してどこかに行ってしまう訳がない。

ということは、獣人族の近くに海もいる。

当然、朔夜と蓮もいるだろう。


海に会えるか、それとも、あの月島のふたり組に会えるか……最悪、獣人族や獣化した人間に食べられておしまい、というケースも考えられる。

それでも、愛子はじっとしていられなかった。


「お役に立てなくてごめんなさいね」


香奈に頭を下げられ……愛子は駅までの道を、肩を落としながら歩く。



「……ちゃん、ねえちゃん! なあ、聞こえねぇのか、クソばばあっ!」


ハッとすると、それは一の声であった。


「誰が、ばばぁよ!」

「呼んでも返事しねぇからだろ。――なぁ、海になんかあったのか?」


一に朔夜のことは話していない。

事情を知らない香奈の前では話せなかったからだ。