「あ、あのさ、カイ……実は、わたしも」

「彼女に逢えたのも、愛ちゃんのおかげだよ」

「はい?」


また突然の進路変更である。

愛子にすれば、わざとのような気がしないでもない。


「ほら、朔夜さんだよ」

「わたしはなんにも……カイ、気にしないほうがいいよ。あんなの嘘に決まってる」

「俺はホントであって欲しいんだ」

「……へ?」


予想外の答えに、愛子の返答も気が抜けたような声になった。

更に海は、愛子が仰天するようなことを言ったのだ。


「嬉しかったよ。だって、もし彼女の話が事実なら、朔夜さんは俺の妹なんだ。なあ、愛ちゃん。海(うみ)は俺に命をくれた、俺はその期待に応えたい。自分が、生きるに値する命だと、証明したいんだよ」


海の決意に、愛子はこれ以上「逃げよう」とは言えなくなった。


訳もなく哀しくて……泣き始めた愛子の髪を、海はずっと撫でていてくれた。


「ありがとう、俺のために泣いてくれて」


そう小さく呟いたとき、海の唇が軽く愛子の髪に触れた。


そして次の日――海は家を出て行ったのである。