深夜、玄関の開く音がした。

あの夜以来、愛子は熟睡ができない。いきなり蓮が体の上にいたことも原因だが……やはり、海のことだ。

また朔夜が現れたら、と思うと不安で仕方がないのだ。


気のせいだったかもしれない。でも、ひょっとしたら……。

ミシミシミシ。ベッドの軋む音だけで、寝返りの回数まで海に知られそうだ。そんなことを考えつつ、愛子は足音を忍ばせながら階段を下りて行った。


玄関の鍵は閉まっていた。チェーンもしっかり掛かっている。愛子がホッとして振り向いたとき、そこに海が立っていた。


「カ、カイ。起きてたの?」

「愛ちゃんこそ。こんな時間にどこ行くの?」


ここ数日、猟奇殺人事件は起こっていない。事件は終息に向かいつつあるが一刻も早い犯人逮捕が待たれる、とマスコミは報道していた。


でも実際は……。

街中に散らばっている宝玉の数が減ったから、獣化する人間の数も減っただけなのだ。それに、海や蓮、悔しいが朔夜とかも戦っているから……。


「ねえ、カイ。夏休みはまだ長いんだしさ、岡山に行こうよ! お父さんとカイの大学とか、住んでたトコとか、わたしも行ってみたい!」

「愛ちゃん……」

「もういいじゃない。あんな訳わかんないコト言われてさ。あんな化け物と戦う必要ないよ。奴らは関東近郊にしか出てないし、岡山までは来ないって。ね」