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「そうか。そんなことがあったのか……いや、だけど、そんな」


佐々木警部は愛子から相談を受け、困ったように頭を掻いた。

愛子にはその気持ちはよくわかった。でも、他に話せる人などいない。それに、いつなんどき、あの朔夜が襲って来ないとも限らないのだ。

せめて、いざと言うときの味方が欲しかった。


「本当かどうかわかんないわ。でも、あの女、決め付けてるのよ! カイは人間よ。あんな、変な力を使って襲ってくるなんて、あっちのほうがよっぽどヤバイじゃない」


あの夜から海の様子が一変した。

とにかく、愛子とふたりきりになるのを避けようとする。勉強を教えてくれ、と言っても、わざわざ図書館まで行くくらいだ。理由はわからない。

傷が酷いのかと思ったけど、次の日には傷口は塞がっていた。

それらが指し示す真実は……愛子は考えたくない。


親がなんであれ、海は海である。緑に変身しようが、青くなろうが、怪我が早く治るなら便利じゃない、とすら思う。

海の心は強くて優しい。朔夜に襲われたときも、死ぬかもしれないのに愛子を庇ってくれたのだ。


「そうだな。海くんはいい奴だ。私も彼を信じるよ。何かあったらすぐに連絡をくれ。私は無理でも、そこの駐在を寄越すから」

「警部さん……それって、狼とかゴリラに化けたりしない?」


冗談ではない。愛子は本気だ。


「だ、大丈夫だよ、多分。あ、いや、それとなく、綺麗な玉は見つけても触るなと言ってあるから……。まあ、大丈夫だろう」


いささか不安ではあるが、いざとなれば警察しか頼れない。佐々木警部の忠告を、皆が素直に聞いてくれますように――と、祈る愛子だった。