「今から二十三年前……事件が起こったのは二十四年前。忌わしい出来事で、当時の巫女様が男子を産んだ。朔夜様のお母上だ。無論、朔夜様も俺も生まれてはいない。月輪家には代々男子は産まれないのだ。もし、産まれたときは……島と瀬戸内の海(うみ)に大いなる災いが降り掛かると言われている。それ故、朔夜様の祖母上様は生まれたばかりの男子を海(うみ)に還したと聞いた。二十三年前の二月だ」


出血多量のせいか、それとも話の内容がショックだったのか、海は人形のように固まり動かなくなった。

代わりに愛子が声を上げる。


「何? それって……カイがその男子ってこと? なんなのよソレ! そんな馬鹿げた迷信で、孫を殺そうとした訳?」

「迷信などではない! その証拠に、お前も見たであろう――獣人族を! 貴様が首謀者でなくとも、生きておったせいで『月宮天子』様の結界は弱まり、宝玉は奪われた。宝玉が戻らねば、月島だけではない。瀬戸内の島々は海に沈み、獣人族は放たれる。なんということだ。すべて貴様のせいだっ!」


朔夜は愛子を怒鳴りつけた。


「だから何? ソレはソレ、コレはコレよ! なんでもかんでもカイのせいにしてんじゃないわよっ!」


愛子の論理は無敵であった。

だが、朔夜の言葉はそれだけでは済まなかった。彼女は、海にとって究極の言葉を投げつける。


「その男が母の産んだ男子なら、無関係ではなくなる。なぜなら、母を陵辱し孕ませた男は――その身を雪豹に変え、島の人間四人を食い殺した。そう、紛れもない獣人族だからだ!」


愛子は一瞬、朔夜の言っている意味がわからなかった。

でも……。