入り口の横に置かれた母のドレッサーに、愛子の姿が映っていた。

上はノーブラでタンクトップだけ、下はショートパンツである。


蓮から逃れるのに暴れたせいか、タンクトップの裾は捲れ上がり、危うく胸が見えそうだ。


「きゃあっ! ……見た?」

「――そんなものに興味はない」


見てないと言わない辺りが小賢しい。

ムカついたが……次の瞬間、蓮の目の色が変わった。引き攣った表情のまま、部屋の中を大股で横切り、なんとバルコニーに向かう。


「ねえ、ちょっと、何?」


蓮は無言だ。

あまりに唐突な行動に、何かぶん殴るものはないか、と愛子は部屋の中を見回した。

そのとき、蓮の肩越しに白い光が煌いた。それは、愛子たちが最初に襲われた北案寺の方角……。


「まさか……朔夜様」

「え? それって最初に言ってた巫女さまって人のこと? ちょっと、あなたね」


蓮はひとつも答えようとせず、踵を返した。

部屋から出ると四~五段飛ばしで階段を駆け下り、そのまま玄関から飛び出す。


愛子も、着替え……なんて迷っている場合じゃない。裸足にスニーカーを履き、蓮のあとを追ったのだった。