「ヘン……タイぽいとこはあるけど、あれでも少林寺拳法の学生チャンプなんだから。強いのよ! あんたなんか目じゃないんだからねっ!」

「ほう。そのチャンプ殿は、自分の女を敵かもしれぬ男とふたりきりにして、どこに行った?」


その言葉に愛子は蓮を突き飛ばした。

大急ぎでベッドから飛び降り、部屋から飛び出す。その、あまりに荒っぽい動きに、スプリングはミシミシと悲鳴を上げた。


愛子は廊下に出ると、隣の部屋にノックもせずに飛び込んだ。

そこは母の……両親の寝室だった。正面の窓際にダブルのベッドが置いてある。蓮を家に連れて来てから、そこには海が寝ているはずだ。

敵か味方かわからない蓮と、海をふたりきりにはできない。万一のときでも、愛子の隣に海がいた方が安心だ。母は留守だしちょうどいい、と愛子が決めたのである。

それが……実際に襲われたときに海がいないのでは洒落にならない。


「んもうっ! カイの馬鹿! どこ行ったのよっ!」


愛子の部屋より少し広い母の部屋の真ん中で、思わず叫んでいた。


「下にはいない。そこのトイレにもな」


母の部屋の手前に外開きのドアがひとつ。それは二階のトイレであった。どうやら、家中を確認済みらしい。


愛子が振り返ると、蓮はドアにもたれ掛かり立っていた。カッコつけてる訳ではなく、まだ本調子ではないようだ。