警部は帰り際、玄関で声を潜めて言った。


「光崎という男ならあの玉の秘密を知ってるんじゃないか? まあ、海くんにしても、ずっとこのままと言う訳にはいかんだろう。だかなぁ……あの男が、赤や青に変身して戦ってくれると思ったんだが」


どうやら、佐々木警部の妄想では、五色の宝玉でそれぞれの色に変身するヒーロー、という展開を予定していたらしい。

でも、ショックを受けている海に気遣ったようだ。まあ、言われても困るだろうけど。


でも警部は「ヒーローの色が変わるなんて」とまだブツブツ言っている。


「おっさん、他にヒーローなんか知ってんのか?」

「いや……だが、普通はだな」

「現実はこんなもんだよ。ちゃんと揃って変身するなんてさ、有り得ないじゃん。カッコいい武器とか、ある訳じゃねぇんだよなぁ。……俺は、やっぱ普通の人間でいいや。でも、海のことは応援するぜ! そう言っといてくれよ、オバ……ねえちゃん」


還暦間近の警部より、十一歳の少年のほうが現実的だ。

一の特殊な成長過程を差し引いても、今どきの子供はこんなものかもしれない。


でもどうせ変身するなら……。

空を飛んだり、ビルの壁を登ったり、拳銃の弾を避けたりできるくらいの、明確な能力アップが欲しいなぁ、と思う愛子だった。