結果、目立った外傷もなく、斉藤は心臓麻痺で急死となる。

襲った動機は不明で実害もなし、施設職員の不祥事は避けたい上からの意向で、『わかば園』の事件そのものがなくなった。

それを聞いたとき、愛子は首を捻る。


(蓮が『光剣』で突き刺した傷はどうなったの?)


だが……ない、と言うものをしつこく訊ねる訳にも行かず。

不思議な玉も然り、それで獣化する人間も……。訳のわからないことは一杯ある。最早、刺し傷のひとつやふたつ消えた所で大したことじゃない。

愛子は、そんな風に自分を納得させたのであった。



「でも、愛子さんのおかげで助かりました。一瞬、本当にパンダに見えた気がしたんですよ……でも、有り得ないですよね、そんなこと」


クスクス笑う香奈に……他の四人は心の中で「有り得るんです」と声を揃える。


「でも、一君がなんでもなくて本当によかったです」


パンダから話を逸らせるべく、海がニコニコと話しかけた。

この笑顔が愛子の癇に障るのだが、海はまるで気づいてないようだ。


あの日、一は熱中症で倒れたことになっている。海の機転だ。しばらく意識が戻らなかったので、その影響がないか心配だ、と検査をお願いしたのだった。


「ええ、驚きました。でも、直前までとっても元気だったのに……倒れるまで走って逃げなくてもよかったのよ。先生の怪我なんて、本当に大したことなかったんだから」