「おっ。どうした?楠」
「マリー?」
「…帰る」
「えっ!?」
登校したばかりだというのに、麻理子はそそくさと帰り支度を始めていて。淳也との言い合いに集中してしまっていた明治は、「しまった…」と教室の異変に気付いて小さく舌打ちをした。
「待って、麻理子」
「No」
「え?おいっ。楠!」
二人の制止も聞かず教室を出た麻理子の前に、とある人物が立ち塞がる。
「あれ?帰っちゃうの?マリーちゃん」
「・・・」
「志保っ!止めて!」
「ん?stopだって、マリーちゃん」
追って来た明治の言う通り、志保を両手を広げて通せんぼをする。そんな志保の後ろに、麻理子には不穏な影が見えた。一瞬怯むも、大きく首を振ってその影を振り切る。
「Good job!志保。奇跡だな」
「あらっ。酷い言われよう。お弁当届けてあげたのに」
頬を膨らせる志保からお弁当の包みを奪い取り、明治はふぅっとため息をついた。
「戻ろう?」
「嫌よ」
「もう授業始まっちゃう」
「一人で戻ればいいじゃない」
振り向きもせずに応える麻理子に、明治は眉根を寄せる。
そんな明治の姿を正面で見ていた志保は、「こりゃ大変だ」と嬉しそうに笑った。
「離してよ」
「嫌だね」
掴まれた腕に、じわじわと圧力がかかっていくのがわかる。
たった一日の付き合いだけれど、「明治には決して逆らってはいけない」と麻理子の本能がそう告げていた。
けれど、負けん気の強い麻理子はそれでも抵抗を続ける。
「アンタなんて嫌いよ。離して」
「君が俺を嫌いでも、俺は君を嫌いじゃない」
引き寄せられた体は、いとも簡単に明治の腕の中に納まってしまう。ポカポカと胸を叩いて抵抗するけれど、離してもらえそうな気配は無かった。
「教室に戻ろう。今ならまだ間に合う」
「嫌だって言ってるじゃない!」
潤んだ麻理子の大きな瞳が、明治の褐色の双眸を捕らえた。
幼い頃から、「どうして自分だけ…」と思ってきた褐色の瞳。それと同じ物を、片方だけとはいえ麻理子は持っている。それだけで、明治が麻理子に惹かれるには十分な理由だった。
「何かあったのー?」
「うるさいよ、志保。さっさと自分の教室に戻れよ」
「ちょっとくらい教えてくれてもいいのに」
ふんっと背を向けた志保が一歩踏み出し、そして歩みを止めてゆっくりと振り返った。
「マリーちゃん、アキちゃんには逆らわない方がいいわよ。その悪魔、時々暴走するから」
「What's?」
「それね、私が召喚した悪魔なの」
うふふっと笑いながら、志保は一歩、また一歩と麻理子に歩み寄る。
悪魔!?そんなのいるわけない!と撥ね退けてしまいたいのに、どうしても声が出なかった。
「私、魔女なの」
「ま…じょ」
「そうよ。だから気を付けてね」
にっこりと笑う志保の怪しげな笑顔は、麻理子に「恐怖」を植え付けるには十分だった。
小刻みに肩を震わせる麻理子は、完全に志保に怯えきってしまっていて。
そんな二人のやり取りにふぅっと大きな息を吐き、明治は後ろからギュッと麻理子を抱き締めて耳元で囁いた。
「それでも逆らう?俺に」
「うっ…」
何だかわからない感情の原因はこれだったのか…と、志保の言葉を素直に信じた麻理子は恐る恐る明治を見上げた。けれどそこには、幾度となく見せた「黒い笑み」は浮かんではいなくて。どちらかと言えば、とても爽やかな笑顔があった。
「ア…キ?」
「ん?」
「ホントに…Devilなの?」
「どう思う?」
ふふっと笑う明治と、嬉しそうに人差し指をくるくると回している志保。
その二人の間で視線を往復させ、麻理子は小さく首を振った。
「わからないわ」
「だろうね」
その言葉と同時に体を開放され、急に心細くなった麻理子は自ら明治の手を取った。
「どうしたの?」
「怖いわ、この人」
「よし。じゃあ、志保に悪い魔法をかけられないうちに教室に戻ろう」
「そうね。そうしましょう」
「ってことだから」
「あらら?結局私が悪役?」
不満げに唇を尖らせた志保は、去って行く二人の後ろ姿にバーンッと指で作ったピストルを放った。
「せっかく助けてやったのにさ」
志保にしてみれば、幼なじみの明治は可愛い弟。その明治が珍しく興味を持っているようだったから手を貸してやったのに、結果は自分ばかりが悪者になってしまった。
「何だよ。可愛くねーの」
チッと舌打ちをし、志保は三年生の教室がある三階へと上がる階段を一気に駆け上がった。
「マリー?」
「…帰る」
「えっ!?」
登校したばかりだというのに、麻理子はそそくさと帰り支度を始めていて。淳也との言い合いに集中してしまっていた明治は、「しまった…」と教室の異変に気付いて小さく舌打ちをした。
「待って、麻理子」
「No」
「え?おいっ。楠!」
二人の制止も聞かず教室を出た麻理子の前に、とある人物が立ち塞がる。
「あれ?帰っちゃうの?マリーちゃん」
「・・・」
「志保っ!止めて!」
「ん?stopだって、マリーちゃん」
追って来た明治の言う通り、志保を両手を広げて通せんぼをする。そんな志保の後ろに、麻理子には不穏な影が見えた。一瞬怯むも、大きく首を振ってその影を振り切る。
「Good job!志保。奇跡だな」
「あらっ。酷い言われよう。お弁当届けてあげたのに」
頬を膨らせる志保からお弁当の包みを奪い取り、明治はふぅっとため息をついた。
「戻ろう?」
「嫌よ」
「もう授業始まっちゃう」
「一人で戻ればいいじゃない」
振り向きもせずに応える麻理子に、明治は眉根を寄せる。
そんな明治の姿を正面で見ていた志保は、「こりゃ大変だ」と嬉しそうに笑った。
「離してよ」
「嫌だね」
掴まれた腕に、じわじわと圧力がかかっていくのがわかる。
たった一日の付き合いだけれど、「明治には決して逆らってはいけない」と麻理子の本能がそう告げていた。
けれど、負けん気の強い麻理子はそれでも抵抗を続ける。
「アンタなんて嫌いよ。離して」
「君が俺を嫌いでも、俺は君を嫌いじゃない」
引き寄せられた体は、いとも簡単に明治の腕の中に納まってしまう。ポカポカと胸を叩いて抵抗するけれど、離してもらえそうな気配は無かった。
「教室に戻ろう。今ならまだ間に合う」
「嫌だって言ってるじゃない!」
潤んだ麻理子の大きな瞳が、明治の褐色の双眸を捕らえた。
幼い頃から、「どうして自分だけ…」と思ってきた褐色の瞳。それと同じ物を、片方だけとはいえ麻理子は持っている。それだけで、明治が麻理子に惹かれるには十分な理由だった。
「何かあったのー?」
「うるさいよ、志保。さっさと自分の教室に戻れよ」
「ちょっとくらい教えてくれてもいいのに」
ふんっと背を向けた志保が一歩踏み出し、そして歩みを止めてゆっくりと振り返った。
「マリーちゃん、アキちゃんには逆らわない方がいいわよ。その悪魔、時々暴走するから」
「What's?」
「それね、私が召喚した悪魔なの」
うふふっと笑いながら、志保は一歩、また一歩と麻理子に歩み寄る。
悪魔!?そんなのいるわけない!と撥ね退けてしまいたいのに、どうしても声が出なかった。
「私、魔女なの」
「ま…じょ」
「そうよ。だから気を付けてね」
にっこりと笑う志保の怪しげな笑顔は、麻理子に「恐怖」を植え付けるには十分だった。
小刻みに肩を震わせる麻理子は、完全に志保に怯えきってしまっていて。
そんな二人のやり取りにふぅっと大きな息を吐き、明治は後ろからギュッと麻理子を抱き締めて耳元で囁いた。
「それでも逆らう?俺に」
「うっ…」
何だかわからない感情の原因はこれだったのか…と、志保の言葉を素直に信じた麻理子は恐る恐る明治を見上げた。けれどそこには、幾度となく見せた「黒い笑み」は浮かんではいなくて。どちらかと言えば、とても爽やかな笑顔があった。
「ア…キ?」
「ん?」
「ホントに…Devilなの?」
「どう思う?」
ふふっと笑う明治と、嬉しそうに人差し指をくるくると回している志保。
その二人の間で視線を往復させ、麻理子は小さく首を振った。
「わからないわ」
「だろうね」
その言葉と同時に体を開放され、急に心細くなった麻理子は自ら明治の手を取った。
「どうしたの?」
「怖いわ、この人」
「よし。じゃあ、志保に悪い魔法をかけられないうちに教室に戻ろう」
「そうね。そうしましょう」
「ってことだから」
「あらら?結局私が悪役?」
不満げに唇を尖らせた志保は、去って行く二人の後ろ姿にバーンッと指で作ったピストルを放った。
「せっかく助けてやったのにさ」
志保にしてみれば、幼なじみの明治は可愛い弟。その明治が珍しく興味を持っているようだったから手を貸してやったのに、結果は自分ばかりが悪者になってしまった。
「何だよ。可愛くねーの」
チッと舌打ちをし、志保は三年生の教室がある三階へと上がる階段を一気に駆け上がった。