中庭には、明治と淳也のお気に入りの場所がある。
そこに人を招くのは今回が初めてで、不満げな表情をする淳也の足を踏み付け、明治はジロリと睨み上げた。
「いいっつったろ?」
「言いました。言いましたとも」
視線を逸らし、淳也はふぅっと息を吐いた。
自分よりも背が低く、華奢な明治。美少女と言っても誰も反論しないだろうその容姿の親友の瞳には、絶対的な威圧感がある。
「どうしてこうなっちゃったんだか」
「だから言ったろ?志保のせいだって」
小学三年生の時に初めて同じクラスになってから、明治と淳也は「親友」として連れ合ってきた。昔はもっと女みたいだったのに。と、裏も表も知り尽くしている淳也はぼやく。
「文句あるなら志保に言え」
「言えません。部活の怖い先輩ですから」
「だったら黙ってメシ食う。マリーもこっちおいで」
手招く明治に、麻理子は少し戸惑う。
目元は優しげなのに、瞳の奥は冷たい。明治の瞳は、麻理子にそんな印象を抱かせた。
「どうしたの?」
「no problem」
「そう。ならいいけど」
明治が視線を外したことで、麻理子は漸く身動ぎが叶う。
数時間隣から明治を観察したけれど、クラスメイトの前では人当りも良く、口調も柔らかい。恐怖を感じる要素など一つも見当たらなかったのに、ここに来て見つけてしまった。
「Your eyes are horrible.」
ボソリと出された麻理子の言葉に、言われた本人よりも淳也の方が慌てていて。地雷だ!と心の中で叫ぶのだけれど、それが上手く声になることはなかった。
「マリーの瞳は綺麗だね」
「…嘘よ」
「嘘なんてついてないよ?」
左右で色の違う瞳は、言わば麻理子のコンプレックスで。いくら容姿を誉めたとて、瞳のことに触れようとする人間はいなかった。
「俺は好きだな、その瞳」
「You are crazy.」
「そうかもね」
弁当箱の蓋を開き、明治は俯いてクスッと小さく笑い声を洩らす。それに安堵する淳也と、戸惑う麻理子。対照的な二人も、順に弁当箱の蓋を開いた。
「わっ!すげーな、お前の弁当!」
麻理子が蓋を開けた途端、淳也がそれを覗き込んで感嘆の声を上げた。それに反応した明治も、同じように麻理子の弁当箱を覗き込む。
「ホントだ。豪華だね」
「初日だからってmamaが張り切ったのよ」
「普段は?」
「Sandwichが殆どよ」
「海外ってそれが普通なんだよね?」
「そうね」
それにしても凄い。と、たまご焼きを一つ拝借し、明治はキョロキョロと視線を彷徨わせる淳也の口に押し込んだ。
「お味は如何だい?」
「うん!美味いっ!」
「で、何?」
「へ?」
不意に問われ、たまご焼きをごくりと飲み下した淳也は素っ頓狂な声を上げた。それを笑うでもなく、明治は冷たい視線を向ける。
「何か言いたいんだろ?」
「いや、特には」
「顔に書いてあるけど」
明治の言葉に、麻理子はじっと淳也の顔を見つめる。いくら見つめたとて何か書いてあるはずはないのだけれど、日本人ながら日本語が苦手言語の麻理子は、その言葉通り書いてあるだろう文字を探していたのだ。
「どうしたの?マリー」
「え?」
「ジュンの顔に何か付いてる?」
「え?何か書いてあるんでしょ?」
あまりに麻理子の表情が真剣そのものなものだから、明治と淳也は顔を見合わせても笑うに笑えなくて。そんな二人を訝しげに見つめながら、麻理子は居心地悪くウインナーを頬張った。
そこに人を招くのは今回が初めてで、不満げな表情をする淳也の足を踏み付け、明治はジロリと睨み上げた。
「いいっつったろ?」
「言いました。言いましたとも」
視線を逸らし、淳也はふぅっと息を吐いた。
自分よりも背が低く、華奢な明治。美少女と言っても誰も反論しないだろうその容姿の親友の瞳には、絶対的な威圧感がある。
「どうしてこうなっちゃったんだか」
「だから言ったろ?志保のせいだって」
小学三年生の時に初めて同じクラスになってから、明治と淳也は「親友」として連れ合ってきた。昔はもっと女みたいだったのに。と、裏も表も知り尽くしている淳也はぼやく。
「文句あるなら志保に言え」
「言えません。部活の怖い先輩ですから」
「だったら黙ってメシ食う。マリーもこっちおいで」
手招く明治に、麻理子は少し戸惑う。
目元は優しげなのに、瞳の奥は冷たい。明治の瞳は、麻理子にそんな印象を抱かせた。
「どうしたの?」
「no problem」
「そう。ならいいけど」
明治が視線を外したことで、麻理子は漸く身動ぎが叶う。
数時間隣から明治を観察したけれど、クラスメイトの前では人当りも良く、口調も柔らかい。恐怖を感じる要素など一つも見当たらなかったのに、ここに来て見つけてしまった。
「Your eyes are horrible.」
ボソリと出された麻理子の言葉に、言われた本人よりも淳也の方が慌てていて。地雷だ!と心の中で叫ぶのだけれど、それが上手く声になることはなかった。
「マリーの瞳は綺麗だね」
「…嘘よ」
「嘘なんてついてないよ?」
左右で色の違う瞳は、言わば麻理子のコンプレックスで。いくら容姿を誉めたとて、瞳のことに触れようとする人間はいなかった。
「俺は好きだな、その瞳」
「You are crazy.」
「そうかもね」
弁当箱の蓋を開き、明治は俯いてクスッと小さく笑い声を洩らす。それに安堵する淳也と、戸惑う麻理子。対照的な二人も、順に弁当箱の蓋を開いた。
「わっ!すげーな、お前の弁当!」
麻理子が蓋を開けた途端、淳也がそれを覗き込んで感嘆の声を上げた。それに反応した明治も、同じように麻理子の弁当箱を覗き込む。
「ホントだ。豪華だね」
「初日だからってmamaが張り切ったのよ」
「普段は?」
「Sandwichが殆どよ」
「海外ってそれが普通なんだよね?」
「そうね」
それにしても凄い。と、たまご焼きを一つ拝借し、明治はキョロキョロと視線を彷徨わせる淳也の口に押し込んだ。
「お味は如何だい?」
「うん!美味いっ!」
「で、何?」
「へ?」
不意に問われ、たまご焼きをごくりと飲み下した淳也は素っ頓狂な声を上げた。それを笑うでもなく、明治は冷たい視線を向ける。
「何か言いたいんだろ?」
「いや、特には」
「顔に書いてあるけど」
明治の言葉に、麻理子はじっと淳也の顔を見つめる。いくら見つめたとて何か書いてあるはずはないのだけれど、日本人ながら日本語が苦手言語の麻理子は、その言葉通り書いてあるだろう文字を探していたのだ。
「どうしたの?マリー」
「え?」
「ジュンの顔に何か付いてる?」
「え?何か書いてあるんでしょ?」
あまりに麻理子の表情が真剣そのものなものだから、明治と淳也は顔を見合わせても笑うに笑えなくて。そんな二人を訝しげに見つめながら、麻理子は居心地悪くウインナーを頬張った。