いつものように練習を終えて帰路につく二人。
空は茜色に染まり、アスファルトには長い影が伸びていた。

「ねぇ、マリー」

呼びかける明治に、麻理子は少し視線を上げて首を傾げる。
さらりと流れた長い髪を掻き上げて言葉を待つ麻理子は、明治の褐色の瞳をじっと見つめた。

それが明治には心地好くて。
にっこりと笑うと、よしよしと麻理子の頭を撫でる。

「そろそろ友達作ろうか」

明治の言葉に、麻理子はあからさまに嫌な表情を浮かべた。

「要らないわ、友達なんて」
「どうして?」
「どうせまたすぐに引っ越すもの」
「そんなのわかんないじゃないか」

背けられた顔を頬に手を添えて戻し、明治はそっと麻理子の右目に口づけた。

「大丈夫。心配要らないよ」

明治の言葉は絶対。
そんな風に思えるまで明治を信頼している麻理子は、そのままぺたりと明治に寄り添った。


「大好きよ、メーシー」


明治がいれば、友達など必要無い。
麻理子の想いは、他でもない「恋心」だ。


「俺も大好きだよ、マリー」


ポンポンと麻理子の背を叩きながら、明治は微笑む。
この想いが「恋心」なのだと、明治は未だ自分の中で認識出来ないでいる。

「また何か言われるようだったら、俺が守ってあげるから」
「そうね。メーシーは誰より強い悪魔だものね」

うふふっと笑う麻理子の頭を撫で、明治はそっと耳元に唇を寄せた。

「そうだよ。だから何も心配要らない」
「大好きよ、メーシー」

こうして過ぎて行く、二人の「好き」違いの中学時代。