「春樹?どうしました?」

「あっ、あれはっ!プレミアム限定商品、『ラブげっちゅう!』のTシャツ!!こんなところでお目にかけられるとはっ!」


しかし、ファンの荒波によってTシャツを着た人がよろめいた。


「危ないっ」


春樹が走り出そうとするのを間一髪で腕を掴んで阻止する翼。


「バカ、僕が行きます。」

「ばっ、バカとはなんだっ!」


翼を見送り、自分は役に集中する。


今、俺は学校一のイケメン、モテ男の役。


「よーっい、スタート!」


俺は愛しの彼女の元へと走る。


「ちょっと待てよ!」


あのTシャツ俺も狙ってたんだよなぁ


「離してっ!」

「離さねぇよ!」


俺、あのアニメめっちゃ見てたから、はずれた時は悔しかったなぁ


「何でよ!」

「好きだからに決まってんだろ!」


あのTシャツの人、俺が追いかけたかった…


「へっ?」

「…お前のことが…好きなんだよ。だから、もう俺の彼女になっとけよ」


多分…勘なんだけど…あの人、さっきのお隣さんに見えたんだよね


「…うんっ」


気のせい…かな?


今、売れてる女優が胸を強調して俺に抱きついてくる。それを俺はぎゅっと抱きしめてるように見せかけてやんわり受けとめる。


「ハイ、カーット!オーケー!!」


即座に離れて翼の元へと帰る。
翼は慣れた手つきで酸素ボンベを渡す。
俺は慣れた手つきで酸素ボンベから酸素を吸う。
新鮮な空気だ…。


「サンキュ、あの女優、香水つけすぎて鼻もげるかと思った。」

「仕方ありませんよ。どうやら春樹に本気っぽいですから。」

「うわっ、ちゃんと壁作ってんのに、何でわかんないかな。」


女優の方を振り向くと、彼女は顔を赤らめて微笑んだ。俺も愛想笑いをする。
すると、彼女は一瞬俺に見とれ、うつむいてしまった。


「あの様子だと、惚れ直してますね。今日中に告白されるでしょう。」

「何、その天気予報読み上げるみたいに言ってんだよ。冗談じゃない。あっ、それでさっきのプレミアムTシャツの子はっ?」

「大丈夫でしたよ。怪我は無いみたいでした。」

「そっか、良かった。」


ほっとして安堵の息をもらす。


「春樹はそういう表情の方がかっこいいですね。」

「へっ?何?」

「もたもたしてないで、さっさと次の現場行きますよって言ったんです。」

「えっ、そんなキツイこと言ってたの?」


春樹は翼に促され再びバスに入るのだった。