さすが、紳士。
紳士検定とかあったら絶対合格してると思う。


「ありがとうございます。」

翼くんの手を掴むと、思ったより力強く手を引かれた。


パフっ


思わず勢いで翼くんの胸に飛び込む形となってしまった。


「す、すいません!!」


慌てて翼くんから離れる。あ、なんか得した気分だわぁ、こんなイケメンに抱きついちゃった。


「あなたは落とし物が多い。注意してください。」


いつの間にか、落としていたエコバックを拾っていてくれたらしい。


「ああ、よく言われます。ありがとうございます。」
「いえ、」


翼くんが喋るとミントの香りがふわりと漂ってくる。

「もしかして、ガム噛んでますか?」

「はい、」

「全然クチャクチャ言わないんですね。」

「はい、はしたないので、クチャクチャ言わないようにガムを噛む練習をしました。」

「じゃあ、ガムを噛まなければ良いのでは?」

「ガムが大好物なんです。」

変わった人だあ。


「では、失礼します。」

「あ、はい。」


私がポカンとしている間に翼くんはミントの香りを撒き散らしながら、去って行った。