事件から10日ほど経った
水鳥菖蒲こと水鳥絢香は逮捕され、今は裁判に向けての準備が進んでいるという
あれから涼先輩と千波先輩に何があったのかは知らないが
いや、多分涼先輩が千波先輩に弁解に弁解を重ね、誤解を解いたあと、謝りまくった、とみていいだろう
とりあえずいつもの2人に戻ったらしい
相変わらず千波先輩にコキ使われている涼先輩だが、彼なりに幸せを感じているのなら、それで良いのかもしれない
翼くんは意識を取り戻し、検査の結果、後遺症は全くなかった
しかし、しばらく安静にしていなければならないらしく、今は入院中である
春樹はお見舞いに行く度に、土産として、大量のガムを持って行くらしい
「調子どう?」
「良いわけないじゃないですか。誰のせいでこうなったと思って…」
「ハイハイ、今日は黒蜜さくらんぼ味を買ってきたからね。あと、バナナハーブ味もあるよ」
「フン、なかなか春樹にしては良いチョイスじゃないですか」
早速、3個いっぺんに口に放り込む翼
「春樹、仕事は順調ですか?」
翼はガムを3個も噛んでいるくせに、あまり噛んでいる風に見えない
みっともないので、翼は意識してそうしているみたいだが
「順調だよ、でもやっぱ翼がマネージャーがいいな。なんだか落ち着かなくて、というか翼が完璧なマネすぎてたから、今のマネはちょっとね…」
「使えない…ですか」
「いや、別にそこまで言ってないじゃん。だからさ、早く戻って来いよ、ってこと。」
いつも無表情の翼が一瞬笑ったような気がした
「仕方ありませんね。こんな厄介な俳優はそうそういませんから、代理のマネージャーも世話を焼いていることでしょう」
「だっ、誰が厄介な俳優だよっ」
「あなた以外いないでしょう。」
ムッとした顔をする春樹。その頭に手を置いて、ポンポンと叩く
「何かありましたか」
昔からの付き合いで、全く理解出来ないところがある翼だけれど、見ているところはちゃんと見ているんだ
途端にじわっと目に涙を滲ませる春樹