「言いましたよね、ストーカーがうろついてるって」

「うん…ごめん」


車内ではピリピリとしたムードが漂っていた




事務所にはいつものようにファンレターが大量に送られてくる
春樹はなるべく目を通すようにはしているが、返事は一切書かないようにしていた

それはファンは平等に接するべきだ、という春樹の理念からだった

誰かの返事を優先すれば、誰かの返事が遅くなってしまう
そのタイムロスが嫌だったのだ

春樹が手紙の返事をしないというのは、公式ホームページにも乗っているし、春樹自らもそのことをよく公表している

しかし、それでもファンからの熱いファンレターや贈り物は絶えないのだ

そして、三日前

ファンレターの中から脅迫文が書かれたものがあった
赤い封筒、送り主の名前は『ブラッド』


内容は『今すぐ芸能界を引退しなければ、お前の大事な人を葬る。』

という文章だった

事務所はその脅迫文を警察に行って相談し、一応さりげなく警備をしてもらっていた


そして、手紙が送られた翌日

春樹の中学二年の妹、遥香(はるか)が何者かにスタンガンで気絶させられた


委員会で遅くなっており、帰宅途中、襲われたらしい現在は意識を取り戻し、再び学校に通っている




「遥香、ごめん。お兄ちゃんのせいで…」


遥香が入院した日、春樹は仕事の合間を縫ってお見舞いに行った


「何言ってんのよ、お兄ちゃん。悪いのはお兄ちゃんじゃないでしょ?」


「ごめん…でも」


「はあ…」


遥香はため息を吐き、我が兄をじっと見上げた
昔から目が悪い遥香の度のキツイメガネ越しに見つめられる春樹


「いい?こんなことでお兄ちゃんが芸能界止めたら犯人の思う壺なのよっ

それにお兄ちゃんが芸能界に入ったその日から何がなんでもお兄ちゃんを応援するって決めたの」


「遥香っ…」


「お兄ちゃん、最近なんだか楽しそうなんだもん。ダメだよ、泣いちゃ。泣いてちゃ、何も解決しないからね。考えるの。犯人の糸口を。」