「なんで…何で貴様にそんなことを言われなくちゃいけないんだよっ!!私がどうしようと私の勝手だろっ!!」


激昂する珠理奈に対し、ますます冷静になっていく春樹


「じゅりなは将来のことって考えたことある?」

「…ない。今を生きるのに精一杯なんだ」

「これからずっとホステスやるの?」

「…ずっとは…厳しい。年齢を重ねればおのずと客は逃げていく。見てきたからわかる。この世界で生き残れるのはほんの一握りだけ。」

「なら、じゅりなはどうしたい?」

「……母が亡くなる前、いや、まだ私達が円満な家族だった頃から、私には夢があったんだ。私は看護師になりたかったんだ。今だってそうだ」


ぎゅっと両手を握るじゅりな


「私には観察眼があったから、患者さんがどういう性格で何をしたら喜んでもらえるのか、患者さんに寄り添える看護師に私だったら為れると思ってた」


「うん…。」

「でも母が亡くなって全てが狂って今ではもうこの生活から抜け出せない。だって普通に働くよりお金が数倍ももらえるし、大好きな趣味の物もたくさん買える。そんな夢みたいな職業無いじゃない」


春樹はじゅりなの手を握った
じゅりなはハッとして春樹を見る



「現実から逃げるな、じゅりな」



「!!」



「君のその観察眼はこんなところで使うものじゃないだろ?」



目的を見失うな。君が本当にしたいことのためにこの世界にやむを得ず入ったんじゃなかったのか?」


生きる


稼いでお金を貯めて生きる

ひとりでも生きてみせる


生きて生きて、お母さんの分まで生きるんだ



そのためにホステスになった


「もう…良いんじゃないか?」


「でも…やっぱり無理だよっ、だって…止めたら家賃払えなくなるし、学費だって貯めなきゃいけないっ」

「うちの学校には特別手当てがあるのを知ってる?」

「特別手当て?」


「そう、審査を通過した人に与えられるんだけど、学費を全額免除してもらえるんだ」


「審査って何をするのよ」


「さあ?理事長の気まぐれでテーマは変わるからね、俺の時は即興で歌を作れ、だったなぁ。」


「それで受かったの?」

「ん〜、残念ながら落ちちゃってね。なんか理事長的にダメだったみたい」


「そんなあやふやな判定なんだ…」


「だからさ、ホステスはもうやめよう」


「だけど…」

「学校との両立は?出来るの?」

「うっ…」

「いざとなったら俺がじゅりなを養うけど?」

「そこまで心配される必要ないっ。」


今までの借金返済分があるから、当分のお金は大丈夫だろう


きっと学校が始まったら忙しくて仕事どころじゃない