すると、頬に手を添えられ翼の顔が迫ってくる


へっ?ええっ!?き、キスですかっ!?


萌花がどぎまぎしているのをよそに接近する翼は無表情で、ぴと、とオデコをくっつけてきた
そして翼の大きな瞳が閉じる


萌花が石のように固まっていると、スッと瞳が開き、また一定の距離に戻る


「失礼しました。」

「あ、はい。」

「近々、貴方の好きな方に災いが降りかかるでしょう」

「えっ?」

「特に旅行は危険です。絶対に船や飛行機に乗ってはいけません。」

「しばらくこっちにいる予定ですよ、彼は。だから大丈夫ですわ」

「なら、良いのですが。」


翼は腕時計をちらと見た


「そろそろ帰られた方がよろしいですよ。」


調度その時タクシーが通りかかった
翼が手を上げ、車が止まる

「どうぞ」


タイミングが良すぎる
まるでこの瞬間に合わせて話しをしていたみたいだ


「ありがとうございます、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


タクシーが去って行った10秒後
そこに偶然最近騒がれている連続ひったくり犯が通りかかった


「そこの罪人」

「あ?」


犯人はそのスーツの男に話しかけられた


「また罪を重ねることにならなくてよかったですね」

「な、何のことだっ」

「さっき僕が話していた女性狙っていましたよね?」

「何、わけわかんねぇこと言ってんだっ!警察呼ぶぞっ!!」

「ぜひ呼んでください。あ、すみません。もう呼んでました。」


そのスーツの男が指をならした

その音は軽やかに辺りに響き、数人の男達がどこからか出てきた


男は無事逮捕された