萌花から顔を背ける翔太


「何でそんなこと聞くんだよ」

「だって翔ちゃん、良い歳してるくせに彼女の話し全然しないんだもん。お嫁さんいなくなっちゃうよ」

「別に…要らねぇし」

「一生独身のつもり?」

「うるせえな。関係ねぇだろ」


萌花の手を振りほどきツカツカと歩き出す翔太


「関係…ない?」


その言葉が妙に心に刺さった
いつもなら、少しいじけて終わりなのに、許せない


「そうだね、関係ないね」


翔太はようやく振り向いて立ち止まった


「何してんだ、帰るぞ」

「関係ない」

「はっ?」

「関係ないんでしょっ!?」


萌花は翔太とは反対方向に走り出した

「おいっ、待てよっ!!何してんだっ!!」


頭が真っ白な萌花はいつもの冷静さがない
翔太は萌花を追いかけて腕を掴む


「どうしたんだよ、今日なんかおかしいぞ」

「自分でもわからないわよ、どうしてこんなに腹がたつのかしら」

「帰ろう、今日は珠理奈のお疲れ様会やるんだろ?春樹も待ってるだろうし」

「帰らない」

「お前が言い出したことだろ」

「元々帰らないつもりだったし」

「何で?」

「珠理奈ちゃんと春樹くんをくっつけるために決まってるでしょっ!!とにかく今日は珠理奈ちゃんのところへは行かないのっ!!」


ブンっと腕を振り翔太の手を振りほどこうとするが、なかなかどうして手が離れない


「離してっ!」

「離したら逃げるだろ」

「当たり前でしょ?」


キッっと翔太を睨むが全く効かない
逆に腕を引き寄せられた


「きゃっ」


至近距離でお互いの顔を見つめあう


「俺はさ、夜道を女1人で歩かせたくねぇんじゃねぇ。」

「へっ?」

「お前を1人にしたくねぇんだよ。」


頬が赤くなる萌花
だが、目をそらさずにじっと萌花を見つめる翔太


「他の男にとられたくねぇんだ。俺が負けるのはピアノだけで十分だ、それ以外は認めねぇ。」


「え…は?意味がわかりませんっ」


ふっと頬を緩ませて笑う翔太


「俺の前で敬語とか…マジでテンパってんのな」

「翔ちゃんっ…」