そして、今日が入試の日


ピアノコンサートのリハーサルを終えた萌花を翔太は会場の入り口付近で待っていた


どこからどう見ても不良にしか見えない姿だが、世界的に有名なシェフである


「翔ちゃんっ」


萌花が近づくと不機嫌そうな顔がこちらを向いた


「おせぇよ」

「別に終わるまで待ってなくても良いのに」

「バカ、女1人で夜道歩くなんて危険すぎんだろ、ほら行くぞ」

「う、うん」


その分かりづらい優しさが好きなのだ


「今日、入試だったんだよね、珠理奈ちゃん。大丈夫かな」

「大丈夫だろ、根性ありそうだし。それよりお前はどうなんだよ」

「ん?何が?」

「何が、じゃねぇよ。なんかスランプみたいだし」

「え?翔ちゃんにスランプのこと話してたっけ?」

「されてねぇけど…見りゃわかんだよ。抜け出せそうか?」

「うん…なんか傍目にはスランプの演奏には聴こえないんだって。確実に精度が落ちてるのに誰もわかってくれなくてさ、翔ちゃんだけだよ、わかってくれるの」