えっ……?
「じゃあ、これからはシィって呼ばないと返事しないから」
えっ……?
えっ…!?
「ちょっと待って!!?」
「ん?」
ふたりが話しているのを無理くり止めた。
「シィでいいの?」
「自分で付けたくせに、何言ってるのさ?」
そうだけど…。
「どうかした?」
「……人、名字以外で呼ぶの慣れてないから…」
皐月は別だけど。
なんか、名字と名前って違うから。
「じゃあ、俺で慣れてね」
……椎野、シィはそう言いながら、私に向かって笑って見せた。
その笑顔に、私の胸はまた少しだけ弾んだ。
---少しずつ変化する、シィへの想い。
教室では、もう一つの変化が起き始めていた。
--「アイツ、ちょっとウザくない?」
私は気付かなかった。
女子の、嫉妬深い、感情に---。
[ 歩美SIDE ]
「あっ、アユおはよう!!」
「…シィ、おはよう。早いね」
入学してから、1カ月が経ち、だんだん学校生活にも慣れてきた。
シィって呼ぶことにも慣れたし。
休み時間はほとんど皐月とシィといる。
楽しく話したり、トランプしたりしている。
そのせいか、最近学校が楽しいと思うようになった。
「蜂谷さん、椎野くん、おはよう!!」
「おはよう」
シィが挨拶を返す。
……最近、変わったことがある。
それはクラスの女子たちである。
最初のほうは、シィにだけ挨拶していた。
私なんて、目にも入っていなかったはず…。
なのに最近になって、女子数人が私にも挨拶、話しかけてくるようになった。
「良かったじゃん」とシィは言うけど、全然良くない。
だって、……うっ。
まただ。
シィは気付いてないんだ。
私に話しかけた女子が私の横を通り過ぎる時、鋭い目が私を睨んでいるなんて。
ただそれが、ひとりではなく数人がそうして来るのだ。
「…おは、よう」
私は、ぎこちなく返した。
いつもこんな感じ。
「アユ、どうかした?」
シィが私の顔を覗き込む。
「何でも、ないよ……」
私は、ウソをついた。
あんまり、心配なんてかけれないし。
今日は保健体育があった。
ふたり1組で行う授業だった。
「蜂谷さん、私と組もうよ!!」
そう言って、私に声をかけたのは草野さんだった。
草野優子。
今日の朝、私とシィに話しかけてきて、私を睨んだ人。
……正直、嫌だったけど、他の人もいないし、草野さんとやることになった。
授業の内容は簡単だった。
体力測定と記録を書くだけ。
100メートルとか、陸上競技の体力測定だった。
「優子あんまり走ったりとか苦手だから、蜂谷さん代わりに走ってよ」
と、猫撫で声なのかブリっこなのかよくわからない。
ただ、苦手な人種に変わりはない。
「お願い?」
元から私より身長が低いせいか、上目使いで見てくる。
……やっぱり、苦手。
「…評価に関わるから無理。ごめん」
私はそうとだけ言った。
実際の所、評価なんて別にどうでもいい。
ただ、素直に草野さんの言うことを聞きたくなかった。
「えぇ~!!なんか冷たい!!」
冷たくて結構。
関わらないでほしい。
「そんな性格だから、友達がいないんだよ」