今日私は死にました




お風呂から上がり、彼にバスタオルを渡すと自分より私の身体を拭いてくれる。



「ルイの裸はもう見られないかもしれないから目に焼き付くためだよ。優しさなんて思わないでね。」


「じゃあ私も吹いてあげる。雅巳君の白い肌が私が最期に見る男性の身体だから。」



「嘘つき。」



「嘘つきじゃないよ。」



「ルイは僕から離れてまた新しい人を求めに歩いて行けるよ。君の背中を抱き締めた時にそう感じたよ。」







そんなことないよ。



貴方以外、誰を求めると言うの?



ダメだよ、そんな目をしたら。



貴方の目は何もかも拒絶してる目と最初から気付いていた。



私は雅巳君を裏切ったりなんかしないから。








「雅巳君は私の居場所なの。」




バスタオル越しに彼を抱き締めてしまった。




「……………っ。」




「止めてくれよっ!!そういうことが嫌いと言ったじゃないか。」








彼の見たこともない取り乱した姿を、吹いてあげたバスタオルが落ちて拾いながらやってしまったと後悔する。



そうだよね、そんなことを言うなんて貴方の周りの女の人と同じだろうね。




「ごめんなさい。そんなつもりじゃないから……風邪引くよ。」




その場から居なくなった私は泣くのを堪えて部屋着のある部屋でバスタオルを羽織ってうずくまる。




嫌われることはもう沢山なのに。




我慢出来ない、君を必要とする想い。




愛とか恋とかそんな言葉では言い尽くせない私の希望と支えの雅巳君。その答えが【居場所】という重い言葉で彼を困らせた。




どうか嫌いにならないで。














どうか嫌いにならないで。






雅巳君の嫌いな分類が少しでも減らせてあげることが出来たら良いのに。









「ルイ……。」


「……………。」



まだ着替えていなく、バスタオル一枚で包んでる身体を着替え終わった雅巳君はごめんと言いながら私をまた抱き締めた。



「謝らないで、私が悪いの。」



「違うよ、僕が弱いんだ。ルイじゃない。」



「何故雅巳君はこんなに嫌いなモノが多いの?」



「…………………。」



彼の過去は、今の彼の成り立ちでしょ?貴方をこんな風にしたのは誰?



貴方をこんな目にしたのは誰なの?



彼を心から抱き締めてあげることも出来ない。



彼は





こんなにSOSを出しているのに。

























着替えなよと言われ、リビングに戻る彼を見届けようやく衣類で身を包む。



洗濯したばかりの好きな柔軟剤の匂いがするルームウェアを着て彼の場所に戻る。
長い時間お風呂にいたらしく、時計の針は11時を過ぎていた。



「雅巳君眠くない?」


「普段この時間はまだお店にいるから全然眠くないよ?ルイが眠いなら添い寝はするよ。」


「お店ってホスト?」


「まさか。こんな女性が堕ちることを平気で言うホストがいると思う?小さなバーだよ。先輩の店でバーテンしてる。」



「シャカシャカしてるの?」



バーテンダーが酒類を調合する動作の真似をしたら、同じ動作で



「シャカシャカしてるよ。無口だけど女に節操ないどうしようもない店員してるよ。店のライトのお陰でどうやらおばさん達に可愛いって評判みたいで小さいながらにいつも繁盛してるよ。」



「中身はこうなのに?」



と、嫌味たらしくミネラルウォーターを口に含みながら言うと



「三回毒を吐いたら大体フラれるね。年の功は関係無いみたいだね。結局女はいつまでたっても女って感じ。何の為に人生経験積んでるの?って言いたくなるよ。あ、言ってるかな。」




フフって笑うと



「ルイには何回毒を吐いたかな。本音もあるけど君の返しを見てみたかったのもあるよ。」



「そういう人なんだって割りきれる性格なのかな?初めは腹が立ったけどね。」



「そうだね。でもまた連絡来たときは嬉しかったよ。あぁ、神経が太い馬鹿な女なのかよっぽど他に誰も居ないかのどっちかだと思っていたけど。」



「どっちだった?」



「両方かな?」




絶対言うと思っていたから期待通りの返答で準備していた変顔を彼に見せる。



でもあの時の私は何もかもがどうでも良かったの。生きていたくない、ただそれだけの理由で貴方と巡り会えた。



「寝室に行こうか。ルイは夜寝るという習慣を教えてあげるよ。」



「知ってますけど……。」



「おいでルイ。」




私の布団ですけど。







「腕枕は要求しないでね。腕がしびれて外す時も起こす可能性が強いから。」



私の布団に彼が先に横になり、最初からついていない寝室の電気で真っ暗でも無い空間で二人で横になる。



私の服を着て、私のシャンプーの匂いがする彼が横にいて、またしてもドキドキしてしまい。もしかしてセックスするのかな。でもキスとかするのかな。



そう考えてつい雅巳君に背中を向けてしまう。



「そっち向かないでよ、寂しいよ。」



「…………………。」



「受け答えの無い人間は嫌いと言ったよね?ルイ、こっち見てよ。」


「………………ん。」




こっち見てよと言われて素直に彼の方を見ると、彼は私の方に身体を向けてかなり近い至近距離でお互い向かい合った状態になっていた。



寝室のドアを閉めていないからリビングについている電気が漏れて、顔の表情などはハッキリわかる。



雅巳君の顔は、何も変わらない。



ただ真っ直ぐ私を見ては、パチ、パチとゆっくり瞬きをしている。



こんなに近い距離で見つめられると抵抗どころか何かされるんじゃないかと、恐怖とか不安より期待をしてしまう。



求めてはダメなのに。



本当はこの布団は、私と優ちゃんが使っていた布団なんだ。
彼が使っている枕は優ちゃんので、掛かっている布団は優ちゃんといつも取り合いしてた。




優ちゃんじゃなくて寂しいじゃなくて、優ちゃんのモノを使わせている雅巳君に悪い気がする。









「きっと……。」


「え………?」


「写真の男は戻ってくるよ。僕がその立場ならルイを一人にさせてきっと後悔すると思う。だけど。」


「そんなこと……。」








「僕も彼も同じことを繰り返すだろうね。また君を裏切り、次にいっては君を恋しくなりまた戻ってくる。ルイが他の男に抱かれてるなんて考えられないし考えたくもないから。」



「雅巳君も……。」



「ん?」








「雅巳君も裏切るの?」













彼が話ながら私の頬をなぞっていた手を掴んで私の頬の上で固定する。








「僕はきっとルイを裏切るよ。」







甘い台詞ばかり吐いていたから次も甘いのかなと少しだけ期待をしていたが、やっぱりそう上手くはいかない。



優ちゃんが戻ってくることを望んでいたが、いざ戻ってこられると心のわだかまりは抜けずお互い気を使ってダメになるだろう。



弥生を抱いた手で私に触れ、弥生とキスをした唇で私の唇と重なり、





弥生を抱いたあの部分を入れられて嬉しい私が想像つかない。





何を望んで彼が戻ってきて欲しいと願っていたのだろうか。
あの頃に戻れると思っていたのだろうか。



戻れるわけが無い。



それでも良いよなんてきっと口には出しても身体は拒絶するに決まっている。





「もう私は一人ぼっちなのね。」



「ルイ次第だよ。」



固定していた雅巳君の手はスルリと抜け、雅巳君は仰向けに体制を変えて目を瞑った。




その瞬間、




私も目を瞑った。




目を開けてしまえば夢は終わり、今度は悪夢が始まるんだ。










隣で寝ているこの人を、私は繋ぎ止める方法は最初に出会ったきっかけ以外思い付かない。






次会える時は、これが最後と、これが最後なんだと思わなきゃ。






生まれ変わりはあるのかな。