「ユウ太くん」


一人でもんもんしていて、ことことっと可愛らしい足音が近づいてくるのに気がつかなかった。


「ミミ子ちゃんっ」


そこにはにこっと笑うミミ子ちゃんがいた。


俺の表情筋がみるみる生気をとりもどしていくのがわかる。


「ごめんね、待たせたかな?」


ミミ子ちゃんが俺を見上げて首をかしげる。


中学の頃から、相手が男子にしろ女子にしろ見上げるのが常の俺としては妙に嬉しかった。


「ううんっ、今来たとこっ」


本当は結構待ったけど、俺は首を横に降った。


「そう?よかった。」


ミミ子ちゃんはあっさりした返事をすると、


「じゃ、行こっか。」


と俺の手を握った。


あひゃーーーー


と心の中で絶叫しながら、俺はずんずん進んでくミミ子ちゃんに尋ねた。


「ど、どこ行くの?」


「女学館の中。」


……一瞬なんと言われたのか分からなかった。


「えっ、えっ?何で‼」


俺は思わずミミ子ちゃんの手を振り払っていた。


中にはお父さんがいる。


こないだの失敗から、そうそう中に入りたいとは思えない。


俺の振り払う力が強かったのか、ミミ子ちゃんは顔をしかめていた。


「ご、ごめん、痛かった?」


「ううん、別に。……ってことにしとく。」


ミミ子ちゃんは恐ろしい目つきでじっと俺を見つめた。


……怖い。


そういえば、忘れてたけど、ミミ子ちゃんって、怖いんだった。


「ユウ太くん」


「はい‼」


「……中、ついて来てくれるよね?」


ミミ子ちゃんはにっこりほほ笑んだ。


「は、はい。」


NOと言えば何かが起こる。


笑えなくそう思った。