放課後、俺はヒロ人から逃げるように教室を飛び出して、ミミ子ちゃんとの待ち合わせの場所へ急いだ。


待ち合わせの場所は、俺たちの学校のほんの近所だけど、ずいぶんと遠くに感じられる場所。


ヒロ人に言わせれば、魔窟。


世の男どもが言うには、楽園。


明橋女学館の校門前だ。


リムジンとか黒塗りの車がのきなみ連なってるじゃないかと不安だったが、そういう感じの車はみんな広い敷地内に入ってゆく。


たしかにあんなのが公共の道に溢れてたらいい迷惑だ。


俺は塀にすがってあたりをキョロキョロ見渡した。


ミミ子ちゃんのクラスは、まだ終わってないのだろうか。


ミミ子ちゃんのHRの先生は、俺のお父さんだ。


あの人のHRなんて、ものすごく短そうだけど。


俺はひっそりため息をついた。


最後に言った言葉が


ばかぁ


って。


いや、


あほぉ


だったっけ?


いや、この口からついで出たのはそんな楽天的な響きの言葉じゃなかった。


やっぱ馬鹿って言った。


そんな言葉だけ残して、お父さんとずっと会わないわけにはいかない。


本当は会いたい。


でも、お母さんがかわいそうだ。


浮気、うわき、ウワキ‼‼


こんなに忌まわしく感じた言葉はこれまでなかった。


俺は振り返って、塀に手をおいた。


この奥にはお父さんとお母さんがいる。


かつては夫婦で、今はただの同僚。


今更ながらに二人の精神力に感嘆する。


浮気が原因で別れた夫婦が毎日顔突き合わせてるなんて聞いたことない。


分かっているけれど、離婚の原因を知って余計に分かってしまったけど。


もう元どおりには戻らないのに。


過去の幻影をいつまでも追いかけていていい訳ないのに、俺もお母さんも、本当の意味でお父さんとの絆を断ち切ることができないでいる。