(秀人視点)


 朝から美咲の様子がおかしかったから、バイト帰りに話を聞くつもりだった。でも聞けなかった。

 それだけの事なのに……。

 俺はイラついた気持ちを抑えられずにいた。


――秀人。わりぃけど今日寄るとこあるから、先に帰ってて。

――美咲先輩は今から彼氏とデートなんですよぉ。ねっ、先輩?


 バイト後の休憩室での会話が頭を過ぎる。

 つか、寄る所って何処だよ? 彼氏とデート? 金曜に話した時は、彼氏居ねえっつってたじゃねえか。

 あれこれと考えながら歩いていると、ちょうど三日前に美咲と偶然会った公園に差し掛かった。

 俺は何となくブランコに座って煙草に火をつける。

 そして初めの一口を、ため息とともに思い切り吐き出した。

 むしろ美咲に彼氏が居ようがソレを隠そうが、俺が怒る事じゃねえじゃん。なのに何でこんなにイラついてんだよ、俺は。

 自分の吐き出した煙草の煙りをただボーッと見つめる。

 悠々と空に向かう白い煙りは、雲のどす黒さに飲み込まれ、寂しげに消えていくように見えた。

 怒りとも悲しみとも取れる感情は、雪のように冷たく、雪崩のように激しく、俺の心を揺さぶる。