「あんたバカ? 金輪際、秀人先輩には近寄らないって言うまでやめないよ。もちろん、その場しのぎの嘘だったら、ただじゃおかないから。そしたら、ねっ? 解決するでしょ?」

 香奈は心底楽しんでいる様子で微笑み、私の髪を掴んでいる手をパッと離した。

 私は顔がもろにうちつけられるのを防ぐ為、咄嗟に手をつく。

「やりたきゃやれよ。気が済むまでさ。でもよ、香奈。さっきも言ったけど、私はここで何されたって秀人との縁を切るつもりはねえから」

 地面を向いたまま、自分の固い意思を告げる。

 そうだよ。こんなの、あん時の痛みに比べたらなんてことない。私には秀人が必要なんだよ。何されたって、失う訳にはいかない。

――って、アレ? これじゃまるで秀人の事、男として意識してるみたいじゃねえか。金曜日に話をして以来、おかしいよな、私。

「いきがってんじゃねえよ!」

 今度は、ぽちゃ女が勢いよく背中を踏みつける。

 私は両手で身体を支えきれずに崩れ落ちた。

「仁美。そういやあんた最近、口ばっかで全然手え出さなくなったよね。こっち来なよ」

 不意に香奈が、痩せ型の仁美という女に声をかけた。

 そういや、もう一人いたんだっけ。