「私の秀人先輩に近寄るなって警告したでしょ。この意味、分かるよね?」

 香奈は、言いながら私の胸元を勢いよく押した。

 元からあまり抵抗する気もなかった私は、バランスを崩して後ろに倒れ込む。

「だから、それが分かんねえんだよ。秀人はお前の彼氏じゃねえだろ? それに、仮に彼氏だとしても、私はこんな事される覚えはねえんだけど」

 私は立ち上がろうとしたが、その前に香奈が私の腹に足を乗せてそれを妨げる。

「気安く秀人とか呼ばないでね。私もさ、気が長い方じゃないんだよ。あんまふざけてると痛い目みてもらう事になるから」

 香奈は右足でグリグリと私の腹を押さえ付けた。

 つか既にやってんじゃん。

 香奈、お前はマジで何がしたいんだよ? お前にとっての秀人は何なんだよ?

 誰かを好きになるってのは、ここまで人を変えるもんなのか?

 好きになった相手を独り占めしたいって事なのか?

 分かんねえよ、香奈。

 私にとって秀人はかけがえのない親友で、たとえここでどんな事をされようと、それは変えようのない事実なんだよ。

「香奈。お前が秀人を好きになったってのは、見てりゃ分かるよ。でもさ、私にとって秀人は大切な友達だから、近寄るなって言われても無理な話だし、私はここで何されたって秀人の友達やめる気はねえよ」

 私は足蹴にされたまま、真っすぐに香奈を見据えて言った。