『しゃあねえだろ。向こうから来たんだから。殴って欲しいみてえだっだから望み通りにしてやったんだよ。感謝して欲しいくらいだね。まっ、次はお前の番だから、楽しみにしてな』

　バカ西は相変わらず嫌みったらしく笑っている。

　だいたい好きで殴られる奴なんか居る訳ねえだろ。

「お前マジで許さねえ。それに、もう黙ってやられる気はねえよ」

　バカ西と話してるのは時間の無駄だと思い、返事も聞かずとっとと電話を切った。

　焦る気持ちを抑えながら秀人に電話をする。しかし何度呼び出し音が鳴っても、それが通話中に変わる事はなかった。

　やっぱ本当……、なんだよな。とにかく早く行ってみねえと。

　そう思った私は、居てもたってもいられずに急いで煙草の火を消して椅子から立ち上がる。勢いで椅子が倒れた事なんか全く気にも止めないで、財布だけ取りに寝室へ向かった。

　秀人――。何で秀人が……。

　唇を噛み締めながら寝室の扉を開く。

　もうこれ以上、秀人や大樹に迷惑かけたくないから自分が行くつもりだったのに。何でこんな事に？

　大樹。そうだ、大樹に電話しよう。

　寝室で鞄から財布を抜き取って手に持った私は、玄関に向かって走りながら大樹に電話をかけた。