前はそんな事考えてなかったけど、こう何かある度に休むあいつの性格からすると、簡単にやめそうだから。

 私はうまく説得出来るか不安になりながら発信ボタンを押した。

 発信音もしないうちに通話画面に切り替わる。

 ひょっとして携帯を触っていたのだろうか? 出るつもりで出たんじゃないかもしれない。

 それならラッキーだな。まずは電話に出てくれるかどうかが重要だったから。

『何の用だよ? また言い掛かりか?』

 受話器越しに聞こえてくる不機嫌そうな声。

 一言一言が重要だ。言葉を間違えたらアウト。その時点で話は終わってしまう。

 既に言い掛かりのレベルではなく確証がある訳だが、いきなり言うのはやめておく事にした。

「違うよ。ちょっと頼みたい事があって」

 いきなり大きく出ると電話を切られてしまうかもしれないから、まずは下手(したて)に出る。

『は? お前が俺に頼み事? 気でも狂ったか? かける相手、間違えてねえ?』

 まずは話に食いついてくれた。

 さて、ここからどう話すか。実のところ良い案が浮かんでいた訳ではない。微妙に行き当たりばったりである。

「いや、中西にかけてんだよ」

 短文で返して考える時間を稼ぐ私。