玄関を開けると、暖かい風が吹き込んできた。

 目の前に立っている秀人は、その穏やかな春の風に吹かれて、顔にかかった前髪を鬱陶しそうに掻き分ける。

「おっす。あれから寝れたか?」

 秀人は軽く右手を挙げて独特の柔らかい笑顔で聞いてきた。

「はよ。そこそこ寝れたよ。お前は?」

 玄関の鍵を掛けながら聞き返す。

「俺も寝れたよ」

 秀人の返答に安心して頷き、学校に出発した。

 今日はカラッとした陽気で、頬に当たる風も無駄な湿気を含んでおらず心地好い。透き通るようなスカイブルーの空に浮かぶ太陽は優しく包み込むように光り輝いている。

 そんな過ごしやすい春の陽気の中、気分も爽快に秀人と雑談をしながら歩いていると、間もなく学校に到着した。

 そういや秀人と通い始めてからは今んとこ遅刻してないな、などと考えながら校門をくぐる。

 校舎に入ると、廊下で雑談している生徒と何回かすれ違った。

 バカ西がおかしな噂を流してから約二週間しか経っていないが、今では私を見てヒソヒソと話をする奴がいなくなった。噂ってこんな簡単になくなるもんだったかと疑問に思ったりもしたが、誤解が解けたからだろうとひとまず納得している。