「じゃあ気をつけていってらっしゃい」

ラドリーンは片手をのばしてリナムを撫でた。

「わたしの所にはネズミを持って来なくていいですからね」


――えーっ、シッポだけでも要らない? 長くて、ヒョロンとして面白いよ


「要らない」

ラドリーンはクスクスと笑った。


ノックの音と同時に扉が開いた。


「姫様?」

<侍女>が怪訝そうに中を覗き込んだ。

「お話し声が聞こえましたが?」


「ああ……猫に話かけていたの」

ラドリーンはニッコリと笑って言った。


「はぁ……猫に、でございますか?」

<侍女>は戸惑ったような顔をした。


「ちゃんと鳴き声で返事をするのよ」


リナムがすかさず<侍女>の横をすり抜け、開いた扉から部屋を出て行った。


ラドリーンは、何事もなかったかのように近くに置いてあった本を手にした。

本は散々読み尽くした祈祷書だったが、ラドリーンは熱心に読むふりをした。