猫はラドリーンの言葉を理解したかのように、急におとなしくなった。

ラドリーンは、猫を抱いたまま図書室を出た。

蝋燭を一本だけ取り、残りはそのまま書棚に置いておく事にした。

どうせ、また後で来るのだ。


「さあ、お行き。夜に会いましょう」

ラドリーンは廊下に出ると、そう言って猫を下に下ろした。

おそらく猫には通じていないだろうが。


猫は床に下ろされても、ラドリーンの横をしなやかな足取りでついて来た。


「一緒に来るの?」

ラドリーンは猫に話しかけた。

「お前に名前をつけなくちゃね。<影>たちは喋らないから、お前に名前はついていないでしょ?」


それとも猫になら口を開くのだろうか。


「トムなんてどう?」


――イニャーン

猫が小さく間延びした鳴き声をあげた。

――イニャーム、ム、ム


「ニャーム? 何、それ? お前の名前?」


自分でも馬鹿げていると思った。

猫が自分の名前を名乗るわけがない。