「我が義弟の非礼をお許し下さい。罪は、御身に気付かず剣を貸し与えたわたしにあります」

「お前は、俺が誰か分かると言うのか?」

アルフレッド卿は頷いた。

「極光の光を宿した銀の髪。唇には魔法の歌。神王陛下――神王アスタリス様でございましょう?」

「この地にまだ俺の名を知る者がいるとは思わなかった」

アスタリスはそう言って剣を収めた。

テオドロスは脱力したように床に倒れこみ、アルフレッド卿はがそれを支えるように跪いた。

「テオ! ああ、テオ……」

領主夫人は泣きながら、四つん這いで弟の元まで近寄った。

「心配ない」アスタリスが言った。「今は体が痺れているだろうが、じきに戻る」

「大丈夫だよローナ」

アルフレッド卿は妻の背中を宥めるようにさすった。

「ごめんなさい。私、ワインに眠り薬を入れたの」

「どうりでみんな、いつもより早く酔い潰れると思った」

アルフレッド卿は苦笑した。

「ローナ、どうしてそんな事を?」

「ヨランナを、今度こそちゃんと殺そうと思ったの。呪われる前にとどめをささなければ……」

「ローナ……ローナ、王妃は死んだ。死者を殺す事はできないよ。それに生きていたとしてもお前を呪ったりしない」

「本当?」

「ああ」

「あなたはどうして生きているの?」

「やれやれ……わたしとテオは、外の騒ぎを収めるのに席を外したからな。ワインは飲んでいないのだよ。死んでいた方がよかったかね?」