――そうなの? 普通の人はそうだけど、騎士は違うのかと思ってた。命が一つしかないなら、どうして剣を振り回したりするの? 危ないじゃない

「知らん。俺に聞くな」

アスタリスはそう言うと、左手を素早く上に上げた。

金属と金属がぶつかり合う激しい音に、ラドリーンは顔を上げた。

アスタリスの背後から、テオドロスが長剣を打ち込んでいた。それをアスタリスが、根元が三股になった奇妙な形の短剣で受け止めている。

「勇猛果敢な騎士は死など恐れない」

テオドロスが歯噛みするように言った。

「命を惜しむなど騎士に、いや、男にはあるまじき事」

「それを勇敢と呼ぶのなら――」アスタリスはラドリーンを背後に隠すように体をひねった。「――騎士というものは、大馬鹿者の集まりだな」

「何だとっ!」

テオドロスが腕に力をこめた。

「死を恐れよ。人知を越えたものに畏怖せよ。それこそが賢者。真の勝利者だ」

そう言いながら、アスタリスも腕に力をこめた。

テオドロスの持つ長剣の刀身は、短剣の根元の突起に捉えられ、真っ二つに折れてしまった。

「なまくらだな。素人が鍛えたようだ」

「テオっ!」

階段を上って来たアルフレッド卿が、義弟に剣を投げた。