「おかしくない…?
時間が止まってるのに…」
「時計だけが動いてる…」

異様な空気感が二人を包む。
喉の奥に冷たいものが落ちていく感覚がヒナの顔を強張らせていた。
ヒナはこの手の怪奇現象的なモノがてんで苦手だった

それを知っているこうはヒナの顔を見て瞬時に悟る。
それを面白がったこうはより演技がかった声を出す。

「この塔は…まさか…」
「……………………」

「実はこの塔は昔!!」

「いや〜〜〜!!」

案の定ヒナは耐えられずどこをともなく走り出す。

「ははは!!
バカだなぁ、あいつ!」

まんまと思い通りの展開に大笑いして喜ぶこうだったが


「…………て!
あいつどこいった!?」


走り出したばかりのはずのヒナの姿がどこにもない。


『ゴーン…ゴーン』

時計塔の鐘はまだ不気味に鳴り響いていた。


「え?時計塔…?」

無我夢中で走りつづけていたヒナが現実に戻とそこは、まさに時計塔の入り口だった。

カチカチ…
時の進む音が、暗い入り口の扉から聞こえる。
中は細い階段が続いているようだ。


「やば…戻ろ」

異様な雰囲気に引き返そうとしたその時だった。


「誰かいるの」



「!?声」
泣き声混じりの、聞きたかったはずの「人」の声が聞こえた。

「誰?ここの世界の人??」
「はぁ?」

ヒナは安堵感でいっぱいになった。
恐れていたおばけの類はこんな拍子の抜けた返答はしないはずだからだ。

「誰だか知らないけど今、そっち行く!」
「待って!不用意に来たらダメよ。だれか人を…」

呼び掛けは遅かった…


グニャン…………


「えっ」

押し寄せる闇に飲む混まれるかのように、ヒナは時計塔の中へと追いやられた。