男は腕の大きな鳥を空へ離すと茂みの方へと一歩、一歩近づいていく。

「その卵はお前の言う通り、孵ることはない。」

「なんで?」

「お前たちに教える筋合いはない。」

ヒナは、一歩一歩近付くリュウの言葉に後ずさるが
卵の前から何故か離れなかった。


「ヒナ…?」

二人の様子を見守っていたこうがヒナに離れるように声をかける。





ピュィィィー!!!!



その瞬間、空の上から鳥の鳴き声のような高い音が響き渡った。
先程男が放した大型の鳥が何かを知らせるように鳴きながら上空を飛び回っている。

「なに!?」


その鳥の様子に表情を変えた男は空を見上げる。


ブワアァァァッ!!!



鳥の鳴き声の一瞬後におこったのは吹き飛ばされそうなくらい凄まじく強い風だった。
辺りは陽が隠れたように暗くなる。

「うっ!!」

ヒナは思わず傍らの卵を抱き抱え、吹き飛ばされまいとしゃがみこんだ。



「……黒龍…か…。」



男は風に吹かれながら見上げた目を細めると小さく呟いた。

空は暗く何か大きな物に覆われていた。
よく見るとその何かは黒く大きな翼を羽ばたかせ風をおこし、赤黒い口からは大きな牙を見せながら長い刺のある尾をばたつかせている。
まるでそれはおとぎ話に出てくるようなドラゴンの姿をしていたのだ。


「なっ!!」
「龍ですって!?」


驚く二人に降ってきたのは、見知らぬ女の子の声だった。


「リュウ!見つけたわよ!」