村が暗雲に覆われる少し前、こうは空を見上げていた。

「どうしてこんなことになったんだ…。」

誰に言うでもない独り言が宙を舞う。



あの塔にいた奴等…あいつらは危険すぎる。なんとか関わらずに俺達の世界に帰る方法を探さねぇと…


こうはふいにその腕にはまるリングを見つめた。
天の宝珠の攻撃を防いだ蒼の龍の風…
無我夢中で自分でその風を呼んだことが未だに信じられなかった。



こんな何も知らない世界で俺にあいつを守りきれんのか…？
あんな風一つで、この先塔で会った奴等に敵うのか…？


思いを巡らせ、目を開けたこうに飛び込んできたのは急に現れ始めた巨大な黒雲だった。




「！？なんだ、あの雲…」

「こう！！」

ジュンが宿の中から血相を変えて飛び出してきた。


「ジュン！あれはなんだ……って……！」



一瞬のうちに煙が爆発しながら辺りを覆うように暗くなる。
あちらこちらでホットスポットのような闇溜まりが現れ、次々と暗黒の渦を巻きはじめ村を覆い始めた。

バシュッ！！

室内へ急ぎ逃げる村人の手助けをするようにジュンは光を杖から放ちながら叫んだ。



「４DSよ！！」

「なんだって！！おい、まだヒナのやつ…！！」

ジュンは言い終わらぬうちに飛び出そうとするこうの腕を掴む。


「離せよ！ヒナを探しに…」
「私も行くわ！」

すぐに言葉をのせるジュンの決意を瞬時に受け取ったこうは小さく頷く。


「……サンキュ」
「時の塔での借りもあるしね！」


ジュンは杖先を光らせ、闇で覆い尽くされた村に飛び出していった。












ヤバイ………


ヒナが村にたどり着いた時にはすでに辺りは真夜中のような闇に覆われ、右も左もわからないくらいになっていた。


村では異変に気付き闇を恐れ家々は閉ざされ、明かりさえも消し、息を潜めるように避難しているようだ。
逃げ惑う人々や、倒れこむ村人も次々と闇に消えていく。

月も星明かりもない真っ暗闇の中から、今来たばかりの村の宿に手探りでたどり着くことは不可能だった。


どうしよう…ここはどこだろう…



数秒ごとに闇を増す恐怖に足をとられ、ついにヒナは立ちすくんでしまった。
只でさえ知らない世界、見知らぬ土地の闇の中に放り出されたヒナは心細さに涙が頬を伝う。


なんで…私ばっかりこんな……



前にも後ろにも進めず、しゃがみこむヒナは抱えたモンタを抱きしめる。


「ウキ！！」

「こわいよ…」


「ウキー！」

モンタはまるで勇気づけるかのように声を発していたが、今のヒナには届いていなかった。