二人のいる空間はまるで教会のようだった。

その部屋にある、華麗なデザインの窓から
月明かりが二人を照らしていた。


「一夜、貴方の鼓動を感じたわ」


麗華はそう言うと、
真っ直ぐに一夜を見つめた。

麗華は一夜の両手をぎゅっと握ると、自分の頬に当てた。


「一夜、私からは何を感じますか?」


その質問を聞くと、
一夜は瞳を閉じ、ゆっくりと耳を澄ませた。




「…麗華様、何も、何も感じません。何も…聞こえません。」


一夜は麗華から何かを感じることも、聞き取ることも出来なかった。

一夜はそれを少し残念そうに思えた。


「一夜、残念に思う事は何もないわ。だって、私は貴方の傍にいても、何の鼓動もないもの。」

「…それが少々残念なのですがね。」


一夜は苦笑しながら言った。
すると麗華はくすっと薄く微笑んだ。


「だから、私は貴方に命令したのよ。」

-人の愛し方を教えて、と…-


月明かりに照らされている麗華の姿を、
一夜はじっと見つめていた。


-嗚呼…嗚呼…!
これが見たかったんだ…!-


朝なんかよりも、昼間なんかよりも…
麗華様が一番美しく見える時間…


「…麗華様、」


一夜の手は、麗華の柔らかい頬に優しく触れていた。

だが唇には触れず、
一夜の唇が触れたのは、
唇のすぐ隣の頬だった。