「絵理奈ーぁ……あ?」
その時、ケンは別卓から現れたリュウと目が合った。
「あ…」
ケンは絵理奈の横に座っていることを思い出して、すかさずその場を立つが気まずい思いで言葉を濁した。
「…絵理奈がヒマだから座ってもらっただけよ」
助け舟を出したのはもちろん絵理奈。
そしてそれは事実なのだからケンが何か罪悪感を感じることはない。
けれど、リュウの切れ長の瞳にケンは居心地が悪かった。
「…っそ。の、割りに楽しそうなカオしてるような気ィするけどな?」
「ヤキモチ? リュウらしくな―――」
リュウが平静を装うように言ったことに絵理奈がカランと氷の崩れたグラスに手を添えた時だった。
「そりゃあな。しかも相手が新人(コイツ)ならなおさら」
そう言ってリュウは人目も気にせず絵理奈の体をこの上なく抱き寄せるように隣に座った。
「っ…あ、ちょ…リュウ!」
そんな不意打ちの行動には、さすがの絵理奈も顔を赤らめる。
「…そのカオそそる」
ぼそりとピンク色に光るピアスをつけた絵理奈の耳に触れるかの距離で、リュウがそう囁いた。
そんな光景を、やはりまともには見られなくてケンはさりげなくその場から少し離れた。
「…マジ、向いてねぇなオレには」
ケンはそう独り言を呟いた。