「リュウは……忙しそうね」
席に通された絵理奈が、少し不機嫌そうにソファに座るとポーチから煙草を取り出した。
「…いらっしゃいませ」
そう言いながら、ライターを差し出したのはケン。
絵理奈はケンを見て、ふっ、と柔らかく笑うとその火で煙草をふかした。
「リュウさん、もうすぐこちらに来れると思いますから」
ケンは目を合わさずに接客上の言葉を掛ける。
すると絵理奈はポンポンと、自分の座るソファを軽く叩いて言った。
「ケン、ここ座って?」
「えっ…でも」
「絵理奈が『座って』って言ってるんだから、ねぇ?」
ケンはチラリとリュウの方を見たが、リュウは別の客との会話で気付かない。
そして、“客”の指示と割り切ると、ケンは絵理奈の隣に腰をおろした。
「…失礼…します」
「あはは! ケンて、わかりやすっ」
少し距離を置いて腰を掛けたケンだが、その距離は容易く絵理奈によって意味がなくなってしまう。
絵理奈は自然にその空間を詰めて、ケンの足に自分の足をピタリとつけて座った。
「先に飲んじゃお。甘めのテキトーに持ってきて?」
絵理奈がそう注文したのは近くにいたもう一人の下っ端ホスト。
そのホストがその場から去ると、ケンと絵理奈の二人きりになった。
「そんなに堅くならないでよ!」
前傾姿勢でケンの顔を覗き込むようにして絵理奈が笑う。
しかしケンはどう答えていいかわからないまま目を泳がしていた。
「絵理奈、ケンと話、したくて」
「―――話…?」
ケンが聞き返すと、ふーっと煙草の煙を吐き出して、グロスのついた煙草を灰皿に押し付けた。