店に入ったケンもまた、その扉に寄りかかって何かを考える。
自分の手のひらを見つめてその“違和感”が何かを。
「………なんだ…?」
考えてもよくわからない。
そしてわからないまま動悸が走る。
さっき楓(シュウ)が落ちそうになったのを目の当たりにしたから、未だにその驚きで胸が騒ぐのか―――。
それとも…
「…まさか、オレ本当に―――」
ある考えが自分の中に浮かんで、片手で口を抑える。しかしすぐにケンは頭を横に振った。
「ケン? どうかしたか?」
奥から歩いてきた堂本に声を掛けられ、慌てて視線を上げる。
「いっいえ! なんでもないです!」
あからさまに、“何かあった”とわかるような反応をして横切るケンを堂本は観察するように目で追った。
ケンはいつもと同じように開店準備を黙々とし始めている。
堂本は少し考えてから、目の前の扉に手を掛けて外に出た。
「―――シュウ」
「?! あ…堂本さん…」
「…なぁに、んな驚いてんだよ」
「いえ…別に…」
階段の中段あたりにいる楓は肩を上げて驚き、目を大きくして振り向いた。
楓とケンの様子から、ほんの些細なことだろうが、何かが起こり始める気配を堂本は本能で感じ取っていた。
「今日も、頑張ってくれ」
階段を昇り、楓と同じ段に来た時に堂本はそれだけ言った。
「は―――はい…」
薄暗い中の堂本のその笑顔に楓はいつまでも目を離せずにいた。