いつもとは違う角度から見える顔と距離。

あまりに急な状況に、楓は目を丸くした。
そしてすぐに我に返ると、態勢を直してケンの胸から体を離す。


「―――悪いッ…」


そう言った楓の腕を未だに支えていたケンも、慌てて手を離す。


「いや……落ちなくてよかったな」
「…ありがとう」


楓はなんとなく、目を見れずに背を向けてそう言った。
反対にケンは、ジッと楓の背中を見つめていた。

少し、そのまま止まっていた二人だが、楓が先に動く。


「あー…ゴミ袋とか持ってきてくれたんだ。サンキュ」


笑いながら言う楓ではあるが、やはりケンの顔を見ようとはしない。
そのままケンを横切って、階段を下ると落としたホウキやチリトリに手を伸ばした。

その楓をずっとケンは見たまま―――。

その視線にようやく正面から向かって楓が平静を装って問う。


「…どうか、したか?」


ケンは、自分を見上げている楓に何かを感じながら、でもそれが何か掴めずにとりあえず返事をする。


「―――いや」
「…変なケンだな」


ふっと笑って楓はまた階段を昇りケンとの距離が近くなる。

再び横切っていくその時に、ケンが突然楓の腕に手を伸ばした。


「!!――――なに?」


心底驚いた楓だが、取り乱す様子も見せずに静かにケンに言った。

ケンは勝手に動いた自分の手に、それこそ驚いたように慌てて手を離すと、「ごめん」と一言言って階段を駆け下りて行った。

店にケンが入って行ったのを上から確認した楓は壁にもたれて大きく息を吐いた。


「び、びっくりした…」