タンタンッと革靴の音を立てて、薄暗い階段を楓は昇っていた。

上まで上がると確かに吹き溜まりなのか、店先の看板や階段の入り口などにゴミが固まっていた。

楓は汚れた街に溜め息を吐きながら、手にあるホウキでゴミを寄せ集め下段へと落としていく。


(汚い……だけどこの街の殆どの人は、こんな足元なんて見てないんだろうな。きっと、目の高さにある煌びやかなものだけに目を奪われてるんだ)


なんだかその足元のポイ捨てされたゴミが、自分のように思えてならなかった。


綺麗に見える景色も、視線を落とせば汚れている。

―――誰も気づかない、汚れた存在。


そう思って手を止めていた時。


「シュウ!」


不意に名を呼ばれて楓は驚く。

ハッと顔を上げ、その声のする方を振り向いたときに足元に溜まったゴミと段差に足を滑らせる。


「ケッ……!」


ふわりとホウキが手から離れ、足元のゴミが浮く。

楓が反射的に固く目を閉じた。
この後の衝撃を想像して。

しかし次の瞬間、思ったようなことにはなっていないようで―――。


「あ、あぶね…」


楓の視界には、数段下に落下したホウキ。チリトリとゴミ袋――――そしてケンの顔だった。