「いいって言ってるのに」
「別に普通でしょ? 駅まで弟見送って何がだめなの」
「……過保護っぽいんだよ」
「それいうなら圭輔の方がーーー」


そんな会話をしているうちに駅に着く。
ちょうど電車がくるようで、アナウンスが聞こえて来た。


「それじゃ」


楓が名残惜しそうに別れを口にした時だった。


「ん」


短くそう言って、圭輔が何かを楓に差し出す。

小さな手のひらに乗るほどの大きさの紙袋。
袋の右上には小さなリボンシールが貼られている。


「あ、これ」
「何がいいかわかんなくて。でも、それが目についたから」
「開けていいの?」
「ん…あ、やっぱり、オレ帰ってからにして」


少し照れた様子で圭輔は列車が来たのを確認して言った。


「わかった…ありがとう」
「ほんと、そんな大したもんじゃないんだって。じゃあ」


軽く手を上げて圭輔はあっという間に帰って行った。

その電車が完全に見えなくなり、音も聞こえなくなるまで楓はその場で見送ると、くるっと踵を返して一人きりで来た道を戻る。

その道中、帰り際に渡された圭輔からの袋を開いてみる。


「…どんな顔して買ったんだか」


その中には小さな丸型の小物入れ。
手のひらにすっぽりと収まる大きさのそれを握りしめて、楓はアパートへと歩き始める。