「いただきます」


そう言って圭輔は一番先に真ん中に置いてあるキッシュに箸をつける。


「…ん、全然心配ない。美味しい」
「よかった。…圭輔いつも何食べてるの?」
「んーテキトーに」
「『テキトー』って……」


飄々と答える圭輔に、楓は母親のように口うるさく注意し掛けて止めた。

高校生の弟に自炊をしろと言うのもまた難しいのかもしれない。
大体面倒を見てあげていたのを放棄したのは自分でもある。

自分が何か言える立場ではない。

楓はそう思って圭輔から目を逸らして僅かに俯いた。


「そりゃ、姉ちゃんのご飯が食えないのは痛手だけど。…でもだからってあのままうちに居たら、オレ、学校も落ち着いて行けなかったって!」


わざの明るく圭輔がフォローすると、楓は震えた声で言う。


「……弱くてごめん」


静かな部屋に二人きり。
そんな空間だと、どんな小声でも届いてしまう。


「姉ちゃん。弱いとかじゃない。当たり前のことだから」
「だけど、私が―――」
「あの時―――あの時。オレが帰ってなかったら、と想像しただけで血の気が引く」


箸を持つ手を下げて、圭輔はギリギリと歯を音立てて言った。
楓はそれに対して自らの手を重ね合わせて握り締めるだけ。

そんな楓に気付いた圭輔は、我に返って真っ直ぐに姉を見て言う。


「ごめ…! ただ…でも、今のオレじゃ守りきれないから。だから―――」


必死で楓に伝えようと言葉にするが、途中、楓がにこりと笑顔を向けて口を開いた。


「『守る』だなんて、いいのよ。これからそういう相手が現れるんだから」
「…そんな相手、出来る気がしない」
「そんなこと言って! 結構モテてるでしょ」


姉の顔で楓はくすくすと穏やかに笑ってそう言った。